赤ちゃんが寝なくても「まあいいか」
長女ちゃんが赤ちゃんの頃、私はとにかく長女ちゃんに寝て欲しかった。
ついこの間まで好き放題寝ていたのに、赤ちゃんが生まれた途端信じられないくらい寝られなくなって、私は常に寝不足だった。
3時間おきの授乳が必要、と聞いてはいたが、その壮絶さは想像を越えるものだったのだ。
まして長女ちゃんは、いわゆる寝ないタイプの赤ちゃんだった。
抱っこでゆらゆらしてもなかなか寝付かない。寝付いてもベッドに置けばすぐに目を覚ます。転がしておいただけで寝るなんて夢のまた夢。夜間断乳しても深夜の覚醒はなくならず、2歳近くまで睡眠には悩まされた。
だから、私は長女ちゃんにたくさん昼寝をして欲しかった。
活動限界の時間が過ぎると、もう眠いはずだろ、早く寝て!と思いながら寝かしつけをしていた。
家の中でも抱っこ紐をつけて、必死にぐるぐる部屋中を歩き回って。やっと寝てくれた後は、起きてしまうのが嫌でそのままソファに座り、私も座ったまま仮眠を取ったりしていた。
なかなか眠らない長女ちゃんに、イライラしていたことも覚えている。
なんで寝ないの、なんて赤ちゃんに言ったって仕方ないのに、恨み言をぶつけて怖い顔をして、いいから早く寝てと必死に言い聞かせていた。
眠れる時間のはずなのに寝ない長女ちゃんが恨めしかったし、寝ている間はとにかくほっとした。
育休中、私は日中でも、長女ちゃんが寝るとほとんど一緒に寝ている生活だった。とにかく眠くて眠くて、長女ちゃんの昼寝の間に家事をやる、なんて考えは全くなかった。
そして現在。わが家には双子の赤ちゃんがいる。
夜間授乳の回数も減ってはきたが、まだまだ眠い。毎日疲れきっている。けれど、長女ちゃんの時ほど必死に双子に「寝て!!」とは思わない。
どうせ長女ちゃんがいるから昼寝が出来ないとか、寝不足に体が慣れてきたとか、まあ色々理由はあるけれど。
一番の理由はふと、気づいたからだ。
抱っこされてまどろんでいる赤ちゃんの顔の、なんて愛しいことだろう、と。
眠ったかな?と抱っこしている双子兄くんの顔をそっと覗きこんでみたら、細く目を開けて真顔で一点を見つめていて、母は笑ってしまった。
寝てないから苦笑したんじゃない。そのぼんやりとした表情があんまりにも可愛くて、だ。
うとうと、とろん。そういう感じ。もう泣きぐずるのはやめて、けれど眠りにも落ちてなくて、寝ようかなどうしようかな、決めかねるけどとにかくお母さんの腕の中があったかくて気持ちいな。そんな声が聞こえてきそうな静かな目覚め。
長女ちゃんもきっと、こういう顔していたんだろうな。だけどあの頃は、抱っこでゆらゆらして30分後に目を開けていようものなら怒っていた。苛立って、寝ないならもう下ろす!なんて抱っこを止めて、長女ちゃんはまたギャン泣きしたりしていたなあ。
そう考えるとやっぱり、そもそもこの表情に気づくことが出来たのは長女ちゃんとの闘いの歴史があるからで、余裕のないはじめての育児の時にこういうささやかな幸せに気づくのはなかなか難しい。
子育ては大変の連続だけれど、こういう時、もう一度赤ちゃんがわが家にいる幸運を改めて噛みしめる。(有難すぎることに、赤ちゃんがいっぺんに二人も来てくれちゃったわけですが。)
そうして、自分の人生がささやかながらも豊かになっていることを実感する。何者でもない私の人生にも、ちゃんと彩りが増え実りが増している。
今回の場合は子育てでそう実感したけれど、たとえば仕事でも家事でも頑張った末に見える景色ってやっぱりあるなあと思った次第だ。子育て以外のことって辛いと投げ出したくなることもあるけれど、そういう時にはこのことを思いだして踏ん張ることにしよう。
大変さを教えてくれた長女ちゃんにも、もう一度やり直すチャンスをくれた双子ちゃんたちにも、心からありがとうと伝えたい。