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小説を書く。その29【BL小説ニアラズ】
すやすやと規則正しい寝息が部屋を満たす。村外れにある小さな宿場には、ほとんど客もおらず、静寂に包まれている。
ベッドのそばにある蝋燭の炎が、幼子の清らかな寝顔を優しく照らし出している。
その柔らかな髪を撫でながら、ふっとため息を漏らした。
……我が王も酷なことを。
こんなにもいたいけな子供を殺せというのか。
王室付きの占い師の予言。
災いをもたらす子が生まれると。
その予言の日に生まれた子。
ただ、それだけだ。
何の罪もないこの子には、当たり前に生きることも許されないのか。
王の命令は絶対だ。誰にも逆らうことは許されぬ。破ればそれは……死を意味する。
私は、自らの剣でこの子の命を絶ってしまったことをこの先ずっと抱えて生きていかねばならないのだ。
――だが、考えてみれば。
この子は命令に従おうが、従うまいが、辿り着く道は同じなのだ。
命令に従ってこの子を殺したとて、私の人生は暗闇に堕ちる。それならば。
一縷の望みに託してもよいのではないだろうか。
「……逃げるか」
今まで思いつきもしなかった道が拓けた。
この子とともに、どこまで行けるか分からない。だがこのまま、この子の首を王都に持ち帰る苦行に苛まれるよりは。
私は心を決め、すっくと立ち上がった。