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小説を書く。その12【BL小説】
「うわあああん、またフラレた〜」
そう叫んで、俺は他人ん家の布団に突っ伏した。
「……またかよ。懲りないな」
聞き慣れた声が、蔑むような言葉を投げかけてくる。
「またかよってね。俺だって好きでフラレてるわけじゃないわけよ。今度こそ運命の相手じゃないかって、お付き合い始めるわけっ。決してフラレるのが趣味とかフラレるためにお付き合いするとかじゃないわけよっ」
「あ、そーなんだ。趣味かと思ってた」
この部屋と布団の主、遠山がからかうようにそう言った。
そんなわけあるか!
ぷーっと頰を膨らませて、半分だけ首を傾けて睨みつける。
「なんでそんなにフラレるかねえ」
ほれ、と冷えた缶ビールを頬にぴたりとくっつけられる。ひゃっ、と高い声を上げて、俺は布団から飛び起きた。
両手で抱えたアルミ缶が、俺の熱を指先から吸い取っていく。エアコンで涼しい部屋の中でも、冷やされた水蒸気があっという間に水滴を作り、指を伝っていく。
大学に入ってすぐ、一般教養の授業でたまたま隣になった。話が合って、すぐに仲良くなった。遠山の家が大学から近いこともあって、ちょいちょい立ち寄って、入り浸り……今に至る。
ふっと隣で缶を傾ける遠山を見ていると、「何?」と不審そうに切れ長の目を眇められた。
「……遠山は作んねーの、彼女」
はあ? と片眉を器用に上げて、大げさにため息をつく。
「作ったとしても、こう毎日誰かさんがいるんじゃなあ」
あ。
「ご……ごめん」
俺が邪魔してる……のか。
しゅん、と肩を落としたら、長い腕が伸びてきて、俺の頭をくしゃっと撫でた。
「嘘だよ。お前が来てくれて俺も退屈しないから」
見上げると、目尻を下げて微笑むヤツがいた。何故かほっとして、俺は缶ビールに口をつけた。
「うわやっべぇ、今日一限目!」
むにゃむにゃと微睡みながら、今日何日だっけ……なんてぼんやり考えていたら、急に現実に引き戻された。
うーん、とすぐ横で寝惚けた声がする。遠山が薄目を開けて「今何時……」と言いながら大欠伸をした。
「今もう九時前! 悪いけど俺もう行くな! また後でっ」
「いってら〜」
ふわあ、とまた大口を開けて、ゆるゆると手を振ってくれる。こういうときのためにと渡されてる合鍵を使ってドアを施錠した。
……なんだかんだで居心地いいんだよな、この部屋。
遠山にいっぱいグチってすっきりしたのか、失恋の余韻ももう薄まっていた。
「行ってきまーす」
とすでに閉まっているドアに囁くと、俺は細長い廊下を走り出した。