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小説を書く。その17【BL小説】

「きみ……彼女いる?」
「は?」

 バイトの面接でこんなこと訊く? プライバシーの侵害じゃねえの?

「で? いるのいないの」
「は……はいっ。います……一応」

 正面の机に座った店長の……児玉さん、と言ったか。片肘をついたまま、俺の履歴書を興味なさそうにぱらりとめくって、こう言った。

「よし、採用」
「へ?」

 彼女がいたら採用になるの、このコンビニ?

「ああ、俺も訊かれた、それ」
 同じシフトに入った先輩にそれとなく尋ねてみると、さらっとそう返された。

「そうなんですか?」

 「児玉店長さ、キレーな顔してるだろ?」
「はあ、まあ」
「たまにね、いるらしいんだよ。なんかこう……ふらっとね、魔が差すというか」
「はあ……」
「それで、面接の時に確認してるらしいよ。そこ最優先で」

 品出しに戻りながら、店長の整った顔を思い出す。まあ……分からないでもないけど。
 だからといって、ねえ。どう転んだからって、所詮は男だし。

 そこへバックヤードから、当の児玉店長が店の方に出てきた。
 ふう、とため息をついてさらさらの前髪をかきあげる。
 ふわんといい匂いが鼻をくすぐった。

『ふらっとね、魔が差すというか』

 ……いやいやいや、ないから。
 俺にはゆきちゃんという付き合って一ヶ月の可愛い彼女いるから。

 そばに立って在庫確認してる店長の顔を無遠慮に眺めていると、鋭い視線が飛んできた。
「……なんかあったのか」
「いえ! 何もありませんっ」

 なぜ、こんなにも心臓が早鐘を打つのか。
 俺は考えるのを止めて、目の前の仕事に集中することにした。





 


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