小説を書く。その63【BL小説】
俺、鈴木悠里には、同姓同名の友人がいる。
鈴木柚李。最初にヤツに出会ったのは銀行の窓口だった。
大学生になり、銀行口座を作ることになって『鈴木様〜』と呼ばれた際、たまたま隣に座っていたヤツと一緒に立ち上がったとき。
次に会ったのは、学校近くのコンビニ。
三度目の遭遇は住んでいるマンションのポスト前。
短期間でこれだけ会ったら、もう友達になる運命だろって、その場で連絡先交換した。
呼び合うのも同じ発音になってしまうので、漢字の読み方から俺が『ハルサト』、ヤツを『ユズ』って呼んでる。
学部はさすがに違ったが、一年時は一般教養の授業も多いので、よく見かける。見かけたら、横に座る。後でノート見せてもらう。
性格は真反対と言ってもいい。俺はどちらかというと人懐こくて、誰とでもすぐ知り合いになってしまう。
対照的にユズは人見知りで、図書館に閉じこもってひたすら読書してるようなカンジ。
それでも一緒にいるのは……何か、楽なんだよな。
それなのに、俺らの友情を揺るがす事件が起きた。
大学入学時から「いいな〜」と思ってた明日香ちゃんのことを、ユズも狙っていると言ってきたのだ。
まさか、好きな相手もカブるとは。名前が一緒だと、好みも似るのか?
『ちょっと一回話そうぜ』
と、ユズを俺の部屋に呼び出し、今に至る。
「……俺は、譲る気ねえからな」
ローテーブルを挟んで、ユズにそう宣言する。偉そうに言ってるが、当の明日香ちゃんとは一ミリの進展もない。完全なる片思いである。
「……俺だって」
いつもは控えめで、俺の提案に『お前がいいならそれで』って引いてくれるのに。
真剣な目。こんな顔、初めて見る。
「……そんなに好きなのかよ」
明日香ちゃんのこと。
「……好きだよ」
好きだよ。
ユズの声がふわんと俺の心に響く。いやいや、俺のことじゃないから。
俺のこと?
だとしたら、どうなる?
正面の見慣れた顔をまじまじと見つめる。卵型の綺麗な輪郭、すっと通った鼻。ほんの少し藪睨みの瞳。
やがて、その表情をふっと緩めると、視線を逸らして「ごめん」とつぶやいた。
「ごめん、嘘。全然好きじゃない。俺なんかに構ってないで、お前は彼女にがんがんアプローチして」
そう言うとかすかに笑んだ。その顔が、なんだかやけに悲しそうで。
なんでそんな顔するのかが気になった。
気付いたら、腕を伸ばしていた。
今にも涙がこぼれそうな瞳が見開かれる。
柔らかい感触。俺の指先が、ユズの頬触れていた。
「ハルサト……」
嘘だって言った。
どっちが嘘?
「ユズ……」
なんか、体の奥からうずうずして、どうしようもなくなって、思ったことが勝手に口から滑り出した。
「キスしていい?」
「はぁ!?」
指に触れている頬が熱さを増した。
「おま……お前は、明日香ちゃんが好きなんだろ!」
「うーん、まあそうなんだけどさあ」
もう片方の手でポリポリと頭を掻きながら言うと、ユズの頬に触れていた方をベリッと引き剥がされた。
「この馬鹿っ! ハルサトなんか、絶交してやる!」
きっと俺を睨みつけて、ユズがバタバタと部屋を出ていく。
キスしたら、何かが変わるような気がしたんだ。
ほんのり指先に残る温もりに、なぜか胸の奥が軋む。
俺はその答えが知りたいんだ。
馬鹿、と叫んで出て行ったユズの瞳が潤んでいたのを思い出しながら、俺はぎゅっと拳を握った。
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