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小説を書く。その33 【BL小説】
「なん……っじゃあこりゃあ!!」
俺は第一声を発し、そこで硬直した。
「えへへ……まあ上がってよ」
「どうやって! ゴミ屋敷じゃねえかお前ん家!」
大学のゼミが一緒の高山と、ペアになってレポートを仕上げることになった。
高山は、朗らかで人当たりがよく、ゼミの中ではまあまあ話す相手だ。
なのでペアに組まれたとき、まあ高山ならいっかと安心した。
俺は実家暮らしで弟妹もいて集中できないからというと、一人暮らしだと言った高山は最初ものすごく渋っていたが、
『うちでよければ……来る?』
と消え入るような声で言った。
何がそんなにダメなのか。男子学生の一人暮らしなんだから、多少散らかってても気にしないから、と歩く道すがら話していたのだが。
「そこのスキマから、ちょっとかき分けたら入れるから」
「いやいやいやいや! どのスキマだよ! どこにもねえよスキマなんか!」
ええ〜そうかなあ、なんて言いながら器用にゴミ袋を避けて行く。仕方なくそれについていく俺。ずざざ、と俺の通った道を別のゴミ袋が落ちてきて埋めていった。……帰れるのかな、俺。
「てゆーかこんなんで落ち着いてレポートなんか書けねーよ。よく試験勉強とかできるな、お前」
「え……そういうのは学校とか図書館でやるから」
できてねえのかよこの部屋で!
俺だって潔癖症ってわけじゃない。でもこれは……ヒドイ。
「……片付けるぞ」
「え、でもレポート……」
「できるわけねーだろこの状態で! 不衛生極まりないっ」
しゅんと俯いてしまった高山に、とりあえずマスクをつけさせる。
さて、どこから手をつけるか。
「……台所かな」
食料品は期限がはっきりしているので、踏ん切りがつきやすい。
「おら、いつまでもへこんでんな。やるぞ」
またゴミ袋をかき分けながら、部屋の隅にあるキッチンコーナーへとやつを追い立てる。
「なんで二年前のカップ麺なんか取ってやがんだ! まだ食う気なのかよっ」
「へ〜そんなとこにあったんだ〜」
のんびりした返答にイラッとさせられるが、俺は構わず目の前の食料品に目を通し、期限を確認してはぽいぽいと新しいゴミ袋に投げ入れていく。ほぼ切れてるじゃねえか。何食ってやがんだこいつ。
キッチンコーナーから部屋全体を見回して、これは今日一日で終わりそうにないと腹をくくった。
……しかし。
考えてみれば、レポートさえ上がれば俺はそれでいいわけで。
こいつの部屋を片付けてやる義理なんて一ミリたりとてない。
「……三好」
「あ?」
マスクをおもむろに外し、高山が眉を下げて今にも泣きそうな顔で俺を見た。
「ごめん……こんなことにつき合わせて。俺とペアになったばっかりに」
いつも明るい高山がゴミ袋をぎゅっと握って肩を落とす。いつも見せない表情にどきりとした。
きっと、こうなったのには何かしらの事情があるのだろう。
だがしかし。話をじっくり聴くにも、この状態では落ち着いてできやしない。
「いいから、手ぇ動かせ。今日は台所だけでも片付ける」
「今日は?」
きょとんとした顔で俺を見上げる高山に、
「一度始めたんだからこの部屋の床が全部見えるまでやってやんよ。途中でやめたら気持ち悪ぃ」
照れ隠しにわざと吐き捨てるように言う。
高山はぱあっといつもの明るい笑顔を取り戻して「ありがとう」と頭を下げた。
うん、やっぱこいつは笑ってなきゃな。
なぜかその笑顔にほっとして、俺は作業を再開させた。