Law PracticeⅡ民法(5版)35問
【前書き】
(1)本問は、第34問に続き、詐害行為取消権を扱うもので、転得者を登場させて、特に効果面の確認をさせることに重きを置いています。
債権法改正により、要件だけでなく、効果に関する条文も多数新設されているので、一度は確認しておく必要があります。
(2)形式的問いを確認した際に、戸惑った方も、意外に少なくないと思います。
受益者Dに対する請求にせよ、転得者Eに対する請求にせよ、取り消す対象となる契約は、債務者Bと受益者Dの契約ですので、あらためてこの点について確認しておきたいところです。
(3)全体としては、請求権の存否を確定するための要件効果を検討するにあたって、必要な問題文の事情が概ね揃っており、受験対策として、標準的で良質な問題ということができると思います。
(4)本問をご担当されるのは、高須順一先生です。
本日(R7/2/14)の閣議決定にて、次期最高裁判所裁判官に任命されることになったそうです。
私は、昨日13日より、偶然、本問の検討を始め、『財産法学の現在と未来』(潮見先生追悼論文集)に収録されている、高須先生執筆の下記論文にも目を通していたので、非常に驚きました。
(今日は記事をアップするつもりはなかったのですが、この偶然にあやかるために、22時に帰宅後、急遽記事をまとめることにしました)
(5)この論文においては、詐害行為取消権の目的について考察・提案されています。
詐害行為取消権の目的は、伝統的には責任財産の保全・回復にあるとされており、論証でもよく使う表現です。
これに対して、高須先生は、集団的債務処理の性質を有し、また、再建型処理モデルを有する倒産法制の在り方が、債権法改正により一新された詐害行為取消権に重要な影響を与え、これと平仄を合わせる形で新しい詐害行為取消権の目的が再定義されるべきこと(債権関係秩序説)を提唱されています。
(詳細については、同書同論文を各自でご確認ください。掻い摘んで言うと、この考えを取ることにより、要件効果の解釈に影響し得るということ。)
(6)上記に照らしても、また、これまでの記事でも何度か指摘しているように、民事系、特に、民法の実力を底上げする際には、倒産法の知識や理解が有用といえることは間違いないです。
もちろん、倒産法の知識がなければ、司法試験および予備試験における民法で合格答案、上位答案を書くことができないということは全くないと思われます。
また、倒産法選択者であっても、そもそもの民法が不得手であるかたは散見されます。
さらに、令和6年司法試験倒産法は、最優秀層の合格者でも苦戦するほどの難問であったとの話も聞いています。
要するに、上記の話は、選択科目の決定において、短絡的に用いるべき材料ではなく、合格後を見据えた広い視野における議論にすぎないということです。
(7)あっという間に、修習まで、残り1か月余りとなりました。
そろそろ、修習向けの勉強の比重を大幅に増やしていこうと考えています。
NOTEには、令和6年予備試験合格者による、勢いある記事があふれていますし、同期となる、令和5年予備試験合格者の大半が「引退」しています。
ずいぶん前から、同期となる方々とのコミュニケーションツールと化しているX同様に、NOTEでの発信も(趣旨が自学自習のためであるとはいえ)、潮時であるとひしひし感じております。
たとえ、自学自習を進めるうえでも、受験的な観点や知恵・技術等を全く無視することができない以上、どうしても、「発信」に類する行為に、少なからず、及んでしまいがちだからです。
今回が最後なのか、2月いっぱいなのか、修習開始までなのか、いずれにせよ、区切りの日は近いです。
(8)最近、実務を見据えて、自己研鑽のために、商事法務のDB契約をしました。
非常に刺激的で、有用に感じています。
そのなかで、会員向けの無料講座のなかに、令和6年改正親族法解説講座(立法担当者による解説講義)があり、ざっとですが、視聴しました。
財産法との交錯が飛躍的に増え、刑法244条における論証のお決まりフレーズである、「法は家庭に入らず」とは、もはや言うことが難しい印象を受けました。
(これ以上の言及を控えますが、懸念点が多すぎる気がしました)
受験という観点からも、相当の大きなインパクトがある改正になりそうです。
(9)以上を踏まえても、ますます、令和7年の試験は、最終決着をすべき、重要なものになるでしょう。
そうであるところ、TLで流れてくるXのポストを見ていても、NOTEを見ていても、受かる人と、「こじらせてしまう」であろう人の違いは、明確であるように思います。
つまるところ、後者は、①他人の話を(実質的に)聞かず、②(客観的に見れば明らかに)効果的でも効率的でもない、自分自身の慣れた(自分自身に負荷がかからない)やり方に固執する、③そのような態度の要因が、過去の何らかの、小さいか、偶然による成功体験に基づく自信である、というケースが多いように見受けられます。
(10)前提として、自分に甘く、覚悟が足りない、そのように感ずることが多いです。
例えば、だらだら勉強して(時間がないと言いながら、意味に乏しいポストや絡みをして時間を浪費し、)生活リズムを崩すことは、厳に慎むべきですし、勉強以前の最低ラインの話だと私は思います。
仕事をしながら受験をしているのであれば、給料をいただいている以上、それに見合うパフォーマンスを全力ですべきですし、そのための体調管理をすべきです。
それもできずに、教材がどうだとか、インプットとアウトプットのバランスがどうとか、今の仕事は〇〇だけど、法曹になったら頑張れます、というのは、全く違うと思います。
【本問について】
(1)既述のとおり、詐害行為取消権を行使して取消しをする対象は、債務者Bがした契約です。
受益者と転得者の契約は取り消しされません。
その不都合を解消すべく、425条の4が制定されています。
この条文の基本的な考え方は、転得者が受益者の、債務者に対する権利を代位行使するイメージです。
【関連問題】の設問(2)は、Aがどのような請求をすることができるかのみを問うているため、いまいち、題意を捉えることができなかったのですが、おそらく、問題意識としては、425条の4の存在があるものだと思われます。
(2)要件検討は、第34問で研究済みですので、そちらで確認をお願いします。
ただし、価格償還請求における価格算定時については、本問にて、詳しめに論証しました。
(3)設問で問われてはいませんが、債権者Aによる、受益者D、転得者Eに対する詐害行為取消権が認められた場合に、DおよびEは誰に何を請求することができるのかについても、条文の確認を通じて整理しておくべきです。
(論述例の最後に、※で書き加えておきました。)
(4)ちなみに、債権者Aは、債務者Bに対しても、詐害行為取消権を行使するために必要な費用を支出したときは、その費用の償還を請求することができます(649条、650条1項)。
詐害行為取消権を行使することができる債権者は、債務者との関係で債務者の財産管理権限を行使しており、両者に法定委任の関係が規定されるからです。
(5)【関連問題】設問(1)では、424条の3と、424条の4の適用関係を確認する必要があります。
(6)上記全てについては、やはり、潮見先生のプラクティス民法債権総論がよくまとまっていますので、条文を参照しながら、できる限り通読して、知識と理解を整理しておきたいところです。
本問の題意は、特に債権法改正で新設、明記された、効果に関する条文について、総合的に確認することにあります。
【論述例】
【攻撃防御BD】
【参照】
・プラクティス民法債権総論第5版補訂/217~274頁(必読)
・債権総論第四版(岩波/中田)280~331頁(適宜)
・紛争類型別の要件事実4訂/第9章(必読)
・要件事実民法(4)/424条の4
・財産法学の現在と未来『詐害行為取消の再構成』/251~274頁
【最近読んだおすすめ書籍】
中小企業法務にかかわるのであれば、一度は目を通しておいた方がよいと思われます。