Law PracticeⅡ民法(5版)6問
【本問について】
重要度 B+
難易度 標準
(1)最初に。
第6問は、純粋な演習問題として、適切とは言い難い。
設問(1)は、要件事実で考えると、手付解除の抗弁が成立しないことが、判例上明らかである。
それにも関わらず、問題文の事情及び解説から、Aが、定期預金を期限前解約したことが、履行の着手にあたるか、すなわち、履行の着手の再抗弁を論じざるを得ない。
(2)さらに、設問(1)では、手付の性質を論じなければならないが、要件事実での位置付けは、手付解除の抗弁に対して、解約手付であることを排除する合意の、再抗弁となる。
つまり、通常の民法答案においては、解約手付であることを論じた後に、解約手付の要件を検討するが、要件事実の構造はその逆となる。
(3)また、末尾の【関連問題】は、論点を網羅したいがために作問されたもので、いきなり手付解除を論じざるを得ない雑な作りとなっている。
もちろん、手付解除をいきなり争うことはあり得るが(その場合は、契約関係不存在の確認訴訟になるか)、本問は、『設問(2)において』としていることから、そのように解することはできないはずである(そもそも『設問(2)において』の指す内容が不明瞭)。
論述例は妥協の産物であることに注意されたい。
(4)加えて、本問を通じて最も習得したいあてはめの解説は薄く、また、放任的である。
この点について、潮見、中田、百選ともに、判例の事案を、規範に当てはめるという解説がほとんどない。
そこで、ネットで拾える論文をいくつか読み、これらを参考に、あてはめの論述をしてある。
(5)以上より、残念ながら本問は、ロープラ民法の良くないとされる要素を凝縮したような問題とも言える。
設問の設定が微妙、解説が問題に対して直截的ではないという要素である。
✳︎多少の脱線になるが、前者の要素に対しては、『サブノート210問』が秀逸。短い文章のなかに、書かせたい論点のトリガーが必要充分に組み込まれている。
(6)上記の事情や、論点自体の相対的重要度の低さに鑑み、本問を流すという考えもあり得るが、賛成できない。
確かに、司法試験、予備試験での出題は確認できないが、実はR6司法試験での出題予想論点とされていた(的中率が高いとされる、辰巳ハイローヤー等)。
また、手付解除の抗弁は、類型別、大島、岡口で扱われている。
(7)したがって、問題の作りに不満はあるが、要件事実としては重要であり、出題予想もされるところであるから、折り合いをつけながら、しっかりマスターしたい問題というべきである。
(8)最後に。
合格発表まで10日あまりである。
例に漏れず、ナーバスになっていることを自覚する瞬間がある。
それでもなお、例えば、X等で、自分の感触等に関する内心を明らかにするメリットは全くなく、ただただ静かに待つよう、自制している毎日である。
もちろん、他の全ての受験生と同じように、合格していて欲しいと強く願う。
それだけである。