Law PracticeⅡ民法(5版)33問
【前書き兼雑感】
(1)多忙ながらも、毎日出勤していたころに比べると、自由に使うことができる時間が増えているのも事実です。
あらためて思うのは、「時間もお金も、あればあるだけ、ないならないなりに」、過ごしていくということです。
「ない」ときの工夫や知恵は実力に寄与する度合いが大きいような気もします。
(2)同時に、実務で働くようになると、「時間がある」という状況は、誰にとっても等しく、少ないと考えられます。
豊富な時間(とお金)を費やして結果を出した人と、そうでない人が、実務で各々どのような評価を受ける人になっていくのかについては多少の興味があります。
もちろん、実務家としての評価は、多様な要素が関係するでしょうし、多様な物差しがあってしかるべきなのでしょうが。
(3)下記の通り、本問においては、民法以外の領域において、非常に骨が折れましたが、楽しかったです。
本当の民事好きであれば、民法の範囲外という理由だけでスルーすることはないと思います。
(末尾の【関連問題】【発展問題】についても、出題可能性が高い論点が多いことから、当然すべてに取り組んでいます。)
自分自身の研鑽と趣味を兼ねて記事をアップしていますが、人目にふれるかたちでやっている以上、妥協や手抜きをすることなく、誠実に、魂を込めて今後も取り組んでいくつもりです。
(正直なところ、試験中に提出する論述例を作成するだけなら、1問あたり、30分もあれば充分なのですが…)
【本問について】
(1)民事系の総合問題で、司法試験対策、民法の論点潰しの目的から大きく外れている問題です。
具体的に、民事保全法、民事執行法、破産法、民事訴訟法が随所にからみます。
純粋な民法の問題は、設問1の半分と設問2で、設問3、発展問題は、民法の範囲を明らかに超えています。
私の裏どり、確認作業の大半が、民法以外に対するものになりました。
(2)これを踏まえて、民法の部分だけに取り組むという、せこくて、情けなく、知的探求心を欠くようなことをすることはしませんでした。
せっかくの機会ですので、関係する領域については、基本書や論文にあたり、いまできる範囲の論述例を作成しました。
これによって、民法の理解も深まるからです。
それでも、倒産法の自習の進捗については、まだまだ部分的で、体系的理解の習得には程遠い段階ですので、設問3の論述例は今後修正する可能性があります。
(3)問題自体は、旧試験やロースクール入試に出題されるような、実質一行問題で、近時の司法試験民法に倣った事例解決問題ではありません。
(とはいえ、民事訴訟法では出題可能性はありますし、令和5年予備試験刑法設問1、令和6年刑法設問2は、このようなタイプの問題でした。)
また、受験予備校が受験論点として出題したい論点を多数含む債権者代位権について、ロープラ民法の編者である潮見先生等が、この1問しかあてず、かつ、執筆者に倒産法専門の山本先生をあてたこと等についても、様々な想像をせざるを得ません。
(4)債権者代位権が、平時よりもそうでないときに威力を発揮する制度であることの結果として、民事保全・執行法や破産法と絡み、これとの関連で抑えるべきことは理解できます。
しかし、1問しかない債権者代位権の枠として、本問(とその解説者)をあてたことは、債権者代位権の今後の取り扱いを予想させるものとも言えそうです。
具体的には、債権法改正のプロセスの中で、債権者代位制度の廃止が検討されました。
本来の回収方法は本問手段1であるべきであるという理解からです。
結局、423条以下は残されましたが、423条の5が創設されたことで、使い勝手の悪い(リスクが高い)手段になったと理解されています。
このような背景をふまえた、上記選択であったのかは不明ですが、受験生としては、債権者代位権については、本問だけでは典型論点を網羅できないので、予備校教材を使用していない人は、令和2年予備試験民法でこの分野の基本をおさえておきたいところです。
※予備校の答案例・解説を信用できない、嫌いな人は、『実戦演習民法』(古積健三郎/弘文堂)を使うとよいでしょう。
(私も、予備試験受験時には読み込みました。)
(5)設問1前段においても、「どのような事実を証明する必要があるか」という問いに答えようとしました。
設問1後段については、実体法上の要件と要件事実が異なることを意識するのは比較的容易ですが、設問1前段についてこれに答えない理由は皆無だからです。
(6)設問1後段は、本問で唯一に近く、最大の論点である、債務者の無資力要件について、三段論法を組んで、くどいくらいに論述しました。
事情が少なく、あてはめにくかったですが、ここをサラッと流す論述例は、作成者の得点感覚に疑問を持たざるを得ないです。
(7)設問1後段は、問題文において、契約不適合の事情が挙げられていますので、423条の4を根拠に一応触れました。
(8)このような実質一行問題において、二つ以上の手段や制度をあげる場合には、両者の比較をすることがお決まりであるので、これについても論述しました。
(9)設問2は、債権者代位権の要件である、代位行使される権利の存在の問題なのでしょうが、423条の4における抗弁としても理解できそうで、少し
書き方をあいまいにしてあります。
(10)設問3は、破産法(解説者山本先生の専門分野)の理解が必要ですので、現状の理解で論述しました。
その際に、司法試験委員(考査員ではない)の沖野先生(東大教授)の論文もネットで拾って読み、参考にしています。
(11)【発展問題】設問(1)は、423条2項の話であると思うのですが、保存行為ができることと、取り立てをすることができることは別ですので、そこを意識した論述にしていますが、裏を取り切れていないので引き続きリサーチします。
少なくとも、安易に混同しなければ評価されると思います。
(12)【発展問題】設問(2)は、完全に民事訴訟法の論点でした。
瀬木先生の基本書、高橋先生の重点講義の理解をベースに、百選6版103事件を応用して(債務者を他の債権者に置き換えて)、論述をしています。
理屈としては問題ないレベルであると思われます。
Cの当事者適格を争わない場合には、独立当事者参加ではなく、共同訴訟参加によって、類似必要的共同訴訟を作出すべきでしょう。
なお、『新債権総論Ⅰ』703頁で、潮見先生が結論だけ述べ、参照論文も引かれています。
この論文もネットで拾い読みができますので、余裕がある方はご確認ください。