こうしてまた、パリの季節がやってきた。

パリオリンピックの開会式でセリーヌディオンが愛の讃歌を歌っているのにうっとりしながら、自分のここまでの数年を振り返った。

人生で2度目のフランス行きを決めたのはコロナ直前の2019年だ。2010年に1年間パリで過ごして以来、ずっと心の中にパリがいたのだけど、居心地のよい日本の職場や周囲の環境に甘えて、常に現状維持。いわゆる惰性。成長しないまま年月だけが過ぎた。

何かが自分の中で足りないのははっきりしてるくせに、それを無視して楽な道を選んでいた。もんもんもーん としながら。

2019年の末、意を決してもう一度パリに行こうと動き出したけれど、結果的にその時は学生ビザ取得を却下された。そのわずか1ヶ月後に世界はコロナ騒動に突入した。

むしろビザが却下されたおかげで私は渡仏せずに済み、お金も時間も無駄にすることもなく済んだ。結果的にはものすごくラッキーだったのだが、却下されたその瞬間はフランスから拒絶されたような気持ちになり、未来が見えなくなった。

悔しかったけど、冷静に後から思えば、私が提出した無謀な志望動機書と浅はかな学校選びでは、フランス大使館の審査は真っ当だった。

その後、1から作戦を練り直して過ごすこと2021年の7月。東京オリンピックの開会式で、次期開催地のパリがオーケストラのフランス国歌に乗せて紹介されたのを見た瞬間、2024年の夏はここにいたい、ここに行くぞ と、はっきり思った。アスリートでも、オリンピック熱狂サポーターでも無いけれど。笑

もう一度フランスに行って、今度はちゃんとフランス語を学んで、今後の人生のキャリアに繋げるぞ と。

というわけで、2023年の9月に再渡仏。
今、私はパリにいる。

1度目の2010年の滞在時はビギナーズラックというか、まるで『パリ滞在初回おためしキャンペーン』だったかのように、出発前から帰国まで、なにもかもがとんとん拍子で苦労もなかったし、おかげで、それまで興味の無かったフランスという国が、大好きな、とても身近な国になった。

それが今回はどうだろう、準備の段階から、ビザ、円安、家探し、世界情勢、どれをとっても弱気になりそうな状況ばかりだった。
いわば、おいしいとこどりな初回とは違い、見事に、『フランスあるあるな洗礼 詰め合わせアソート』だ。

え、こんな国だったの?と 美しい部分ばかりではなく、その本性を見た気持ち。

しかし、振り返るとその過程も含めてこそシナリオが色付くってもんで、やっぱりやってよかった と思うところに今たどり着いている。

なんだかんだと、日本とフランスの両方で周囲の人に助けられながら、その2回目の滞在もまもなく1年が終わる。

滞在延長を希望するにあたり、ここにきていよいよ、夢の一人暮らしに向けても動き出した。
できればもっと早くしたかったけど、ただでさえ難航するパリのアパート状況に輪をかけてオリンピック期間の高騰もあった。ここまではシェアハウスや、ブルジョアマダムの部屋を間借りして日々を繋いできたけど、2024年の今日、昔からの希望だった15区に自分の城を見つけた。

予算ギリギリではあるが、自分の求めていた条件にぴったりだった。
厳密には、今のパートタイムのレストランの給料だけだと少しマイナスになるけど、その分はこれから増やしていこうというやる気(というか崖っぷちに立ってるだけ)も湧いてきた。家が決まった瞬間に心持ちが全く変わり、精神的なゆとりが生まれた。

小学生でお小遣い貯めてスーパーファミコンを初めて買った時とか、トランペットを買った時、ハムスターやうさぎが初めて自分の家に来た時、車を買った時みたいな、念願のお気に入りを手にいれて、それを思うたびにウキウキして、家に帰るのが楽しくなる感じ。
こんな気持ち 久しぶり。これだけでも価値が大きい。

このアパート探しの件に関しては、まさにとんとん拍子だった。
自分のなんとなく思い描いていた条件のものが急に現れて、決断するまでも早かった。
広告が出てるのを見つけてから1週間。実に見学してから契約が決まった日数、わずか2日間。

不思議なのだけど、一年前はこういう気持ちでアパートを探せなかったので、引き寄せる力も無かった。『どうせこの状況じゃ無理だろう、それにお金も無いし』と、ひたすら弱気な心持ちは、足元を見られる立場になり、見学を決めて引き寄せたのも詐欺まがいの大家(最終的に契約はしてないので無傷です)だった。

でも今回の件から、物事がうまくいく前の予感というか、心持ちを思い出した。
これまでの人生も、何か大きな変化がうまくいく時ってこんな雰囲気だったな と。

大家さんとの契約締結後にたまたま見つけた去年の手帳のメモに、『来年は15区に住む!』と書いてあった。自分でも書いたことを忘れていたので、笑った。

そして、一年間お世話になった大好きな語学学校も今週で終わる。
ずっと毎日面倒見てくれた先生のことを思うと、学生時代の卒業式並みに悲しくなる。
・・ん?悲しい? なぜ?
こんな最高と思える先生に出会えて、最高な経験できたのに?
終わりだと思うから悲しいのかもしれない。でもこれは果たして終わりなんだろうか?むしろこれからのご縁の始まりなのでは。そうも思えてくる。
お世話になった先生にぜひ日本に来てもらいたいし。日本語の勉強を再開すると言ってた先生と、今度は日本語で話したいし。
そう考えると、ウキウキしてくる。

ここまでの1年はまだ序章かもしれない。
ここからがもっと楽しくなるかもしれない。
それを決めることができるのは自分自身なのかもしれない。

こうしてまた、私の人生に2度目のパリの季節がやってきた。


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