『往復書簡』(仮)33往信
Tさんへ
こんにちは。
やっぱり家庭のグチは書かない方が良かったのかなって、少し後悔しています。
Tさんの言いたいことは、すごくよくわかるんだけど、私はどうしたらいいのかわからなくて。
うちのお母さんはとてもきれいで、私は父さんに似たから、コンプレックスをずっと感じてたの。きれいで明るくて、そんな人が落ち込んで泣きごとを言うなんてこと、なかったから。私は初めてお母さんの役に立てている気でいたんだけれど、Tさんから見たら違うみたいで。
お母さんは働いたことがないから、パートなんてできないって自分を責めるの。
父さんには言えないから私にだけグチを言ってきて、初めは一生懸命聞いてあげられたんだけれど、毎日毎日、同じことのくり返しになって来て。
ちょっとつらくなってしまったからTさんに話してしまったの。
でも、確かに、今の状態が続くのは、私にもたぶん限界があるし、それが近づいている予感もする。それに今までは気にならなかったんだけれど、お母さんはおしゃれで素敵な人でね、洋服とか化粧品とかアクセサリーとかいっぱい持っていて。
バッグとかも、触らせてもらえないくらいで。
そういうのにかけるお金、減らせられないのかなって、ちょっとだけ疑問に思ったんだ。使っていないものとか、いらなくなったもの、売ったらいいのにとかも。
ちょっとだけだけれど。
そんなこと、今のお母さんに言うことはできないし。最近は泣いたりするだけじゃなくて、イライラしているみたいで。よくわからないけれど、カードの支払いのこととか大変みたいなことを言うの。もう、こんな話は今日を最後にします。
結局また、グチばかり書いてしまって。
ごめんなさい。
そう、文化祭の絵のことで話したかったことがあったんだ。
私、初めて抽象画を書いてみようなんて思ってね。やってみたんだけれど。
みんなに、何コレ? って。子どもの落書きっていう人もいたし。
描いている時はものすごく楽しかったんだけど。
独特な絵を描くって例の友だち、Mさんっていうんだけど、彼女だけは色が透き通ってて、気持ちのいい絵だねって言ってくれたの。
お世辞だとは思うけど、嬉しかった。
ではまた。
Sより
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