地獄谷の夜
友人と大森。
一軒目、居酒屋。
「Hazeの『挽肉』のコード進行は、1 3 6 5 4 5だよ」とか話していたら、無銭飲食に遭遇する。
まったく太々しい男で、どんどん増えてくおまわりに囲まれて詰められても少しも反省する様子がなかった。常識も倫理もない、ある種の障害のようにみえた。ちなみに2680円、お前常習犯だろ。いきなり胸焼けするようなイベントから始まってしまった。
二軒目、スナック。
「フランスで働いている。帰国していてオリンピックの選手とも飯に行く」という、それが本当なら致命的にダサいおっさんと時間を共にする。しょうもない男だが、かわいそうな男でもある。こんな汚いところでカッコつけるなんて、そんな身を切ったお笑いをしなくても良い。むしろ、なんでこんな所でスカしながら、しっぽり飲めるんだ。お前も常識と倫理がないやつか。
一緒に飲んでいた友人があいつを潰そうというので、2人でテキーラのショットをどんどんいれた。そんなものどんどん飲んだらどんどん酔うのだ。結果的にただただ我々が異次元へとアクセルを踏んだだけの話になった。おっさんのことはもうわからない。全然それで良い。
(後で聞いたら友人はその男がそうとうに目障りでいけすかなかったらしく、眉が細いのもムカついたといっていた。ゲラゲラ。おじさんは皆、村山富市スタイルでないとな)
2軒目の途中、谷のどこかの店主のお婆さんが来店してくる。やたら気に入られた。どこの店か聞くが全く教えようとしない。これが女の駆け引きなのか分からないが、私と友人は仲良く「男子の世界」に突入しているので、もう乙女心を掬いあげる機微はない。そういう脳の部位はアルコールが溶かしてしまっている。
私たちは気前がいいのでお婆さんにもテキーラをだした。今になって思えば老婆がでテキーラのショットを飲む様はなかなか見られないんじゃないか。5杯はいけると言っていた。が、別に「もう飲めない」でも、「100杯飲める」でもなんでもいい。酔った友人の方がコンテンツとして強い。私はマイクに齧り付くようにカラオケを歌う友人をみているのが楽しくて、今はとなりにあるのが枯れた植木鉢だってなんだっていいのだ。ミッシェルの「世界の終わり」をいれると、彼がギターリフも歌うのでゲラゲラ笑った。
(ちなみにテキーラは昨今の人気に対して製造に時間がかかるので高いし高くなる 出典好きなバーのマスター)
こうして1人ならまず行かないスナックでわっしょいし、地獄谷の階段を見事登り切って解散したのだった。
おしまい。
と、これだけならよかった。天国と地獄は時間差で抱き合わせの場合がほとんどなんじゃないか。次の日に100自分が悪いやらかしをする。なにも自己弁護のしようがない、成長しないダメな自分の話だ。一日お通夜だった。けれどせめて、「楽しい時間もあったよね」と思いたくて、友人と過ごしたことをこっそりここに残した。