#ドクトル樋口002/「パーソナライズ」のつまらなさ
みなさんこんにちは。
『行動臨床マーケ専門 赤坂ビジネスクリニック』院長のドクトル樋口です。
毎回ビジネスでお悩みの患者様を、スッキリスバっと完治するお薬を処方していきますよ。
本日の患者様:化粧品メーカー商品開発部員(26歳・女性)
いわゆる「パーソナライゼーション」を売りにしたサービスが増えてきていますよね。うちの会社でもそういうのを考えろ、ということになりまして。そうそう、ひとりひとりの肌のコンディションに合わせて、AIが美容成分を最適に調合した商品をお届けします、みたいなやつです。でも、こういうのが普及すると「新商品」ってどうなっちゃうんでしょう。
もしかして要らなくならない? 私、新商品の企画がやりたくてこの会社に入ったのに…。
ドクトル樋口(以下D):「パーソナライゼーション」ってさ、端的にいうと“つまんない”のよ。
ナース(以下N):何がつまんないんですか。化粧品を自分の肌に最適化してくれるんでしょ、すごくないですか?
D:「最適化」というのは、言い方を変えれば〈正解〉を提供するっていうことだよね。化粧品であれば、あなたの肌にとってどんな成分が〈正解〉なのか。ファッションのサブスクリプションサービスなら、あなたの趣味属性ならこのシーズンにどんな服を着るのが〈正解〉なのか。AIがそれを正確に算出してくれるというわけだ。
N:〈正解〉がわかるなんて、そんないいことなくない? 先生は何が不満なんですか。
D:AIで〈正解〉を提供するビジネスは、そのうち誰でもできるようになるよ。AIを装備するための費用はあっという間に下がるだろうしね。どこもかしこも〈正解〉を売ってるヤツでいっぱいだ、そんなつまんない世界はないだろう。
N:出た…得意の極論じゃん…。
D:〈正解〉だけでは、競争力は生じないということだよ。未来においては、〈正解〉は最もつまらない売り物になるね。断言しとく。
N:「パーソナライゼーション」はダメなコンセプトなんですか?
D:いや、別にやればいいじゃんって感じかな。やるのはいいんだけど、勝負はそこで決まらないんだという認識が必要。〈正解〉が売りになる、つまりそれだけで競争力として機能するステージなんてあっという間に過ぎるから、次の競争力となる価値について先回りして考えておかないと。その視点が足りない企業のいかに多いことか。
N:なんか偉そうでムカつくんですけど。次の競争力って言っても、先のことなんかわかんないじゃんね。
D:それがこの相談者が言うところの「新商品」ってことなんじゃないかな。つまり、〈正解〉にとどまらない新たな〈提案〉を企画するということだ。
N:なんかよくわかんない。
D:「あ、わたしもこんなのやってみたいな」と思わせられれば何でもいい。「あなたに合わせます」がパーソナライゼーションなら、「あなたもやってみない?」というような感じかな。そんなに難しいことじゃないよ。ファンがついているブランドやお店にはそうした〈提案〉性が感じられたりするよね。
N:そこはAIに任せられないってこと?
D:そう。AIに任せられるようなレベルのことは〈提案〉とは呼べないという言い方になるかな。AIにできることなら、どのブランドにもできるもんね。例えば、黒のタートルネックとブルージーンズばかりを送ってくるファッションのサブスクなんてのがあったらどうよ。気候にあわせて素材は細かく調整してくれてるんだけど、見た目は全く変わらない。
N:そんなの申し込む人いますかね。
D:これであなたもスティーブ・ジョブス、と言えば売れるかもしれない。〈提案〉になるわけだ。相当にヘンなヤツしか申し込んでこないだろうけど(笑)。いかに「あ、こんなのやってみたいな」と思わせるか。「パーソナライゼーション」発想だと、こんなのは絶対に出てこない。
N:うわ、得意の極論が炸裂だ。
D:「パーソナライズ」は「新商品」を殺すように思えるけど、そうではないんだよ。「新商品」=新しい〈提案〉こそが、競争力を生む。AIをはじめとするマーケティングオートメーション技術が発達すればするほど、つまり〈正解〉だらけになればなるほど、人が発想する〈提案〉の重要性は強まっていくんだ。
N:でも私は、黒タートルとブルージーンズばかりの人とは付き合いたくないです。ということで、お薬出しておきますねー。お大事に。
ドクトル樋口の赤坂クリニックでは、あなたのビジネスのお悩み、お待ちしてます。どんどんお寄せくださいねー。ではまた次回!