なりたいと思う人間になっているか

「もっとも尊敬する人物は?」という唐突な質問がきたとき、僕は「モリー先生」と答えることにしています。

じつは、会ったこともない、永遠に会えない人なのですが、『モリー先生との火曜日』という本でご存じの方も多いはず。

この本(実話)では、運動神経が機能しなくなる病ALSに犯されていく大学教授のモリーが、毎週火曜、元学生との訪問の際に人生、愛、生と死、家族について静かに語っていきます。

モリー氏は身体が機能しなくなる日々においても、訪問者と語らい、ユーモアを忘れず、迫り来る死への恐怖すらもていねいに表現していきます。

モリー氏が学生たち、あるいは自分自身に常に問いかけていることが、「なりたいと思う人間になっているか」でした。

ロシア移民の子としてアメリカで育ち、若かりし頃、劣悪な環境の毛皮工場で働く父を見て、「絶対に人を搾取する仕事はしない」と心に誓い、やがて貧困の中から学問を積み上げ、社会学博士となります。

 つまりは、もう一度、赤ん坊になるってことさ。
 私は買い物に行けない。
 預金の管理もできない。
 ゴミを出しにも行けない。
 だけど、
 だんだん生命が残りすくなくなっていく中、
 こうして座って、
 人生で大切だと思われるものに
 眼を注いでいられる。

モリー氏の専門である社会学にはスピリチュアルな要素はほとんどないのですが、彼の生き方はスピリチュアルそのものと言えます。

「与えるのは、生きている感じがする」

この臨終の言葉は、彼の人生を凝縮しているかのよう。

ソフトな謙虚さと、良き友人、それに、こうなりたいと思う自分。

僕がもっとも尊敬する人は、この3つを携えた人でした。目指すべき人物がいるということは(たとえ会ったことがなくとも)、ありがたいことです。

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