人生《最悪》の出来事に……

「信康」という歴史上の人物をご存じでしょうか?

信長と家康から一字ずつ名前を授かったこの名前から、想像がつくかもしれません。

お父さんは誰もが知っている天下の家康でありながら、歴史ファンくらいしか知られていない徳川信康は、悲劇の人でもあります。

徳川家の跡取りと期待されながらも、信長の娘である嫁の密告で信長の逆鱗に触れ、父の家康から自害を命じられるという異常な最期を迎えます。

日本の歴史上では、最終的に天下を穫ったのは徳川家康であり、言わば日本史最大の成功者であり勝ち組ではありますが、その本人には、最愛の息子を自刃させねばならなかった、人生最悪の経験があるのです。

ただ家康は、この《最悪》の出来事から、後に二代将軍となる秀忠との関係をがらりと見直し、かつ親子関係をベースにした機能的な法度を次々に作りあげていきました。

ある歴史家は、「世界に類を見ない平和な250年間の礎は、この信康にこそある」とさえ語っているほどです。

もし今年、計らずも人生最悪の出来事を経験してしまった人がいたのなら、どうか、天下の徳川家康のことを思い浮かべてくれたらと思います。

逆境や悲劇は、望むものではありません。けれど、誰にも、良いこと悪いこと、両方起こります。その出来事の後に何をどう変えるか変えないのか、そこに生きている醍醐味があるのかもしれません。

これは、僕の勝手な想像なのですが、息子に切腹を命じたとき、家康は誰も経験したことがないような絶望とともに、もう二度とこんなことが起きない平和な世を作る、と心に誓ったと思うのです。私たちの国の歴史は、まさに、この瞬間に変わったのではないかと。

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