『人質の朗読会』
先日、『人質の朗読会』というWOWOWのドラマを観ました。原作は「博士の愛した数式」などで知られている小川洋子さん。
南米の過激派組織によって人質となった見ず知らずの日本人6名が、何の娯楽もない有り余る時間に、順番に自分の作文を朗読する、というストーリーです。
その回の朗読者を囲み、人質仲間がその語りにじっと聞き入ります。それはまるで厳粛な儀式のようでもあり、朗読者が語りを終えると、何を言い合うでもなく、ただ温かい拍手を贈るのです。
震災のときにもよく聞かれたことですが、閉ざされた環境では、衣食住の次に欲するものが「ストーリー」だと言います。
日本語の本すら手に入らない、明日をも知れない状況で、人質たちは作文を書き、自らの「ストーリー」を語り合うことで、心を満たしていたくという素朴で美しいお話でした。
乳幼児に読み聞かせをすると良いことは、すでに広く認知されています。そもそも人は、ただ生存のためでなく、心を豊かにするためにこそ生きている、そう感じたドラマでした。
関わり合う人と人生体験をシェアすることで、人は人になれる、といえば大げさかもしれませんが、テロや戦争、争い事の対局にある言葉は、「平和」というあいまいな言葉ではなく、「人生体験のシェア」でよいのではとも思うのです。
「衣食住」からひとつ足して「衣・食・住・話」みたいな言葉に変われば、少しは世の中も変わっていくような気がした、今月の物書きの独り言でした。