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地方におけるアスレティックトレーナーの課題

学生から「トレーナーになりたい」という声が多い一方で、実際に「トレーナー」として働く道を選ぶものは少ない。

養成校卒業後は、医療資格を持ち、主となる職場があるケースが大半のため、時間的制約が多いのも要因だろう。また、そもそもトレーナーが働く枠が少ないという側面もある。

しかし、それ以外の要因もあるのではないだろうか。


何名かのトレーナーに現在の課題を聞いたところ、

 ①トレーナーの価値が認識されていない
 ②お金に関する知識がない
 ③クライアントとの交渉力がない/乏しい

というものが挙げられた。それぞれ詳しく見ていく。


①トレーナーの価値が認識されていない

今でこそ「トレーナー」という認知度は高まっているが、まだ何をする仕事か理解を得られていないケースが多い。

依頼側が何を期待しているかがあやふやであるため、「怪我の対応」や「リハビリ」など限定された内容になりがちである。


そもそも認知するような取り組みが乏しいことも挙げられる。

・スポーツ団体や指導者にトレーナーは何が出来るかを伝える

・指導者や選手がトレーナーと触れ合う機会を増やす

・「トレーナー週間」や「トレーナーの日」を設定する

など具体的な取り組みも必要だと考える。


トレーナー側からも「何を提供するのか」を明確にし適切な価値提供を行うことで、相互理解が生まれ信頼を得られてくる。短期的な問題解決は難しいが、継続した取り組みにより「トレーナーの価値」は向上してゆくだろう。


②お金に関する知識がない

トレーナー資格を学ぶカリキュラムの中で、マネーリテラシーを高める講座は一般的に存在しない。

今回、トレーナーにヒアリングする中で「今は病院に守られている」という意見があった。現役の理学療法士であっても、1単位(20分)の診療報酬を知らないことが多いのではないだろうか。

自分が1日でどれぐらいの価値(収益)を生み出しているのかを概算で計算してみるのも良いと思う。


実際のトレーナー報酬からも考えてみたい。

岡山県では大会救護ブースなど単発で介入する場合、日当5000〜10000円(交通費込み)であることが多い。仮に1日対応となると、時給は現在の最低賃金(岡山県982円、2024年現在)を下回ることもある。

この金額設定は通例のようになっており、大会運営側から改善される期待は少ないだろう。また実働時間に関わらず一律の金額ということで、運営側からすると予算が立てやすいことも要因の一つである。


これに関しては、島根県AT協議会がトレーナー派遣に関して金額を明記している。

トレーナーバンク(島根県アスレティックトレーナー協議会HPより改変)

島根県では認定トレーナー制度を設けており、一定水準のトレーナーが派遣されるという社会的信頼性も高い。


大会トレーナーの報酬については、理解が進めば以下のような対策も可能である。

大会開催にあたり参加チームから少額のトレーナー負担金(例えば「500円」)を徴収する。仮に20チームが大会に参加するとなるとそれなりの金額になる(「500円」×20チーム=「10,000円」)。これに実働時間に応じて、運営側からプラスすることで金銭的な問題をクリアできることが考えられる。

一般的に大会終盤はチーム数が少なくなるため、運営側からの支出割合が増加するが、残るチーム数は決まっているため、事前に計画も立てやすい。


ここまで対価報酬について述べてきたが、トレーナーとして働く価値は、単に「お金」だけでは無い。「信頼性を高める依頼」や「社会的インパクトのある依頼」であれば、今後の自分の価値を高めるため引き受けても良いと思う。

ともかく、「お金」に関しては、主体的に考え、自分や社会情勢に合わせ、アップデートしていく事が大切である。


③プレゼン能力がない/乏しい

一般的にトレーナーは、選手や指導者とのコミュニケーションは円滑に行える事が多い。その一方で、トレーナーとしての価値をアピールする事には長けていないように思う。

そもそも営業職のように何かを売り込んでいく経験がない。せいぜい就職試験までではないだろうか。

改めて、自分自身を振り返り、

何が出来るのか。
強みは何であるのか。
どんな価値を提供できるのか。

を短くとも適切にアピール出来る準備はしておきたい。


脱線するが、ビジネスの世界には「エレベーターピッチ」というプレゼン手法がある。エレベーターに乗っている30秒間で簡潔にピッチ(いわゆるプレゼン)するものである。トレーナーも咄嗟の場面でも対応できるよう準備は必要である。


またスポーツ現場は「縦社会」であることが多い。

トレーナーから指導者に意見するという行為は、なかなか見られないように思う。しかし、適切な価値を認めてもらうために、自らの価値を示していく必要がある。

これには継続的な「怪我情報の蓄積」や「身体機能評価」などによる客観的な数値が入ると説得力が格段に増す。仕事がトレーナーだけではない場合は時間の捻出が難しいが、日々丁寧に対応していくことが望まれる。


選手にトレーニング指導するように、プレゼン能力も取り組み次第で高めていくことができる。まずは課題意識を持ち、トライ&エラーを繰り返していき、プレゼン能力を高めていくべきだろう。


まとめ

今回、地方におけるアスレティックトレーナーの課題というテーマでまとめた。

確かに情報がタイムリーに伝わりやすい現代でも、都市部より情報やシステムは入りづらい印象はある。ただ、その分、信頼関係が構築されれば、価値提供はむしろ行いやすいのではないかと考える。


適切な価値を評価して頂くことで社会的な循環が可能となる。

どうしても「リハビリ」や「トレーニング指導」など見えることに目が行きがちだが、改めて自分の立ち位置を俯瞰的に見てみても良いと思う。


トレーナーの価値を高めることは、長い目で見ると、スポーツに関わる選手に還元できると信じている。


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