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neutral013 居酒屋と桜守

 
 Youtube を AndroidTV で見ていることが多い。出典が記述できないこと申し訳ないと思いつつ、見ての通りの小規模な読者の記事では拡散などの伝達効果も然程もないだろうから勘弁して欲しいと思っている。
 さて二つの動画から記憶を辿り記述してみよう。
 
 まずはトム・ハンクスがスランプに陥り、彼は上手く演技ができなくてよく落ち込むそうである。で、そのままの状態で日本の居酒屋で呑んでいた。隣り合わせの普通のサラリーマンのおじさん達と合流。時間の共有と共に打ち解け合い、思い切って悩みを打ち明けたのだそうだ。と一人のおじさんがそれは職人と同じだ、と指摘。日本人なら職人は名人に近づくほど完璧に出来ない自分を悟り、周りにいくら褒められようとも精進するしかないと気を引き締める。それを永遠に繰り返す、というイメージを持っているだろう。
 ネガティブバイアスはトム・ハンクスの記憶にも棲み付いていたらしい。自信を持つよう諭す心理学者ではなく、職人を例に上げたサラリーマンは秀逸だった。その職人もアメリカの職人ではなく日本のというところが良かった。ハリソン・フォードが独学で大工の仕事をしていた経歴から分かるように、大工のきめ細かい技術はアメリカでは問われず、スピードが腕の良さを証明する土地柄なのである。
 兎も角日本の職人というのは己れの腕前の実力・限界を日々身をもって知るという立場に立たされる者のことをいう。精進し、日々腕を磨くしか前へは進めないと覚悟を決めている人間でもある。ネガティブバイアスというよりも単に己れの実力を過信しない謙虚な姿勢を貫き、それに耐えてきた経験の積み重ねがその風貌を作っていると云っても良い。
 私たちは1956年生まれ、老境に差し掛かったトム・ハンクスの演技が名人級になっているのかどうか、期待しようではないか。
 
 もう一人エリック・クラプトンは悲劇のどん底にいた。愛息を失った悲しみから立ち直る術は無きごとく、周りのスタッフは知恵を絞った挙句日本行きを選択し、その状況で来日した。何にも興味を示さない彼。放心状態、ニュートラルのクラプトンが唯一反応したのが、窓から眺めた景色の中で動く、桜が散り終えた、その木の世話する桜守(さくらもり)という人たちだった。質問をしてみると来年の開花のために今から準備をしているのだという。しかも仕事ではなくボランティアで世話をしていて、桜守の役職は代々受け継がれて来たものだという。桜は咲かせるもの。散ってなくなるものではなく、咲かせるものであるから。
 クラプトンは自分が歌う楽曲によって失った愛息を咲かせねばならないと悟ったようだった。歌を世界中に咲かせる。身代わりになって、息子の代わりに自分が咲かせる。利他行の身代わりは此処にも生きている。シンガーソングライターは歌によって……。身代わりになれるのは幸運だったろう。散った花びらの代わりになる桜守も。
(続く)
 2024/04/04


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