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 リクルートと云えば「リクルート事件」(1988年政界官界を揺るがした贈収賄事件)は色褪せない記憶を未だに人々に与え続けている。駅のホームを逃げるように歩くカツラ姿の創業者、江副正文氏の変装映像も何故か鮮明に脳裏に残っている。その後のリクルートは変貌を遂げ、今やハーバード大学で取り上げられる程注目されている(『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』佐藤智恵 日経プレミアムシリーズ 詳しくは以下の三章。リクルートは「夢の実現装置」だ  リクルートの本質はドリームマシン)。驚くべき再建であろう。何故ならリクルート、特に自社の社内からの転職に特徴が現れているからだ。メインは新卒の学生や失職者を企業へ送り込む会社なので転職先を紹介、斡旋するのは勿論のこと、紹介する側の会社自体がユニーク過ぎるのである。何故ならリクルート社員の平均勤続年数が6年、早期退職が当たり前に行われて「夢を実現するための卒業」も奨励。後押しして、起業、転職をサポートしている。
 言い換えれば、リクルートは起業あるいは転職をするために通過する役割を担う会社とも言える。更に言い換えれば、モラトリアムを肯定し、またはモラトリアムからの卒業を支援する企業、モラトリアムがメインの、大学(など他の教育機関)の延長とも考えられるし、しっかりした(職業人としての)アイデンティティ確立を後押しし、目先の利益より、社会で活躍する人材育成を応援する組織でもあろう。あくまで社内という範囲での新入社員のアイデンティティ確立を後押しして来たのが今までの企業だった。不適応の社員はカットし排除するのみだったろう。社員の卒業を歓迎し、転職、起業までをサポートするのがリクルートだ。優秀だが未だ先を具体的に見出せない学生にとってはこれ程ありがたい会社はないだろう。モラトリアムを肯定したまま入社できるのである。言ってみれば「迷い」を歓迎されているようなものだろう。社内はニュートラルで満たされている、そんな想像も可能な企業にリクルートは変身していた。
 今までモラトリアムをメインにした企業などという発想さえなかったに違いない。がしかしあり得ても良かったし、今後は増えていっても不思議ではない。部分的にでも増えるべきであろう。
 
「出る杭は打たれる」ちょくちょく形容される日本人の特質、また欠点・短所であると。
 前掲書の一章の「」未来へ羽ばたく日本のイノベーションーーホンダジェット」
 ホンダジェットのアメリカ工場1500人の長年にわたる経営でその嘘も明らかになっている。トップの日本人経営者はアメリカ従業員であっても日本同様、突出した者に対する無意識・意識的な潰しを証言している。また同じく、日本人の特許のように言われる忖度もアメリカの企業活動にとっての弊害になっていると断言する。改善は認識から始まる。
 アメリカ進出したトヨタ工場では失敗を隠す体質が顕著であった(前掲書、五章の「トヨタはいかに世界の人々の考え方を変えたか」)。上役が望まない失敗の報告、その場の空気を読み失敗を報告しないという。トヨタのアンドン(電光掲示板)「失敗を先に報告せよ」「失敗は財産である」失敗報告の歓迎はここアメリカでも日本同様に成果を上げたのである。
 日本人だけが空気を読み、従うという不甲斐なさの代名詞のような、常識にさえなっていると思われていた短所も、帰国子女の実例からKYと思われていたアメリカ人の間でも肝心なところでは五十歩百歩で行われているのだ。日本人を不当なネガティブキャンペーンに駆り出す日本の知識人もどきには気をつけた方がいい。
 2024/08/26

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