国籍ってなんなの − 日本人夫婦なのに家族4人みんな違う国籍状況になってしまった
私達はドイツ在住の日本人夫婦で二人の娘がいます。現在の家族の国籍状況は
・妻は日本国籍
・長女は日本とドイツの重国籍
・次女も実子なのになぜか日本国籍が取れずドイツ国籍のみ
・私自身は日本国籍ですがドイツ国籍を申請中
と、4人それぞれ違う状態になっています。国際結婚でもなく、こてこてのしょうゆ顔なのにどうしてこうなってしまったか、というお話しです。
長女は自動的に二重国籍に
私達夫婦は日本で日本人として生まれ育ち、大人になってからそれぞれドイツに移住しすでに永住許可も取得していました。
ドイツの国籍法はそれまで純粋血統主義だったのですが、2000年の法改正後は一部生地主義を取り入れ、条件付き複数国籍容認となりました。両親が外国人であってもドイツで生まれた子供の片親が永住許可を持ち、8年以上継続して居住している場合には自動的にその子供はドイツ国籍を取得することになりました。
ということで2005年に生まれた長女は、病院でもらった出生証明で市役所に出生届けをしたら、希望するしないにかかわらずドイツ国籍が自動的に付与され、日本とドイツの二重国籍となりました。わざわざドイツの国籍を申請する必要はありませんでした。
ドイツ国籍を取得したとの役所からの通知↓
次女は日本国籍が取れなかった!?
その数年後2011年に次女が生まれました。出産後のばたばたのあと、妻は1ヶ月後には仕事に復帰していました。少し落ち着いて4人の生活にも慣れてきたころ、子供も連れて行った集まりであったある友人、
「誕生おめでとう!! ・・・あれ、出生届け出してたっけ?」
彼女は領事館勤務で出生届けの担当なのでした。この子の出生届けを見た覚えがなかったのです。
「出生から3ヶ月過ぎると日本国籍取れないよ。」
え!?そんな ばかな・・・
国外で生まれて出生により外国籍を取得した場合は3ヶ月以内に領事館に出生届けを出さないと日本国籍が得られないとうのです。これをきいた時にはは3ヶ月と2週間が経っていました。。。
まあでもちょっと遅れただけだし、両親日本人なんだから手続きさえすれば、まさか本当に日本国籍もらえないなんてことはないだろうと軽く考えていました、、、が、家に帰って調べてみると、、
国籍法第十二条 出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法(昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。
ということで、法律に書いてあるくらいだから本当に国籍取得できないらしい。それに対して裁判を起こしている人達がいるがまだ控訴中だということも分かりました。(その後この裁判は2015年の最高裁判決で残念ながら敗訴。)
そうはいっても、両親日本人なんだし国籍なんて大事なものを法律を知らなくて期限をたった2週間過ぎただけで奪われてしまうなんてことはあるわけないだろう、、、とどこかでまだ思っていました。進行中の裁判の当事者は外国人とのハーフだったので自分たちの状況とは違うのではないかと。
出生届けはそのまま出しても受理されなさそうで3ヶ月を超えている場合にはやむをえない事情があったことを証明しなければならないようでした。そこで夫婦ともに自営業で手が離せなかったなどの状況説明を書き、仕事先にもその時期は仕事が忙しくて大変だったということを書いてもらい、出生届に添えて出したのでした。
そして結果は、、、
なんと両親が日本人でも日本国籍がもらえないなんてことがあるとは。。逆に言えば国籍なんてそんなもんなんだ、、、とも思いました。期限を1日でも過ぎていたらダメだし、法律なんて国によって時代によって違うものです。
日本の戸籍では3人家族
次女が生まれて4人家族となったわけですが、日本の戸籍謄本を取るとそこには次女の名前はなく夫婦と長女の3人しか記載がありません。次女は「日本人」ではなく「外国人」なので戸籍には一切名前が載らず日本国に取ってはうちは3人家族とみなされているのでした。これでは遺産相続の時にはどうなるのかな、などと疑問が湧いてきます。(外国の書類でも親子の証明ができれば遺産相続は可能です。)
ちなみに日本人が外国人と結婚した場合には、その日本人が戸籍筆頭者となり配偶者の外国人はその戸籍筆頭者の婚姻相手として名前が記載されます。もともと赤の他人の外国人配偶者は名前が載るのに、実子であってもその子の欄がないのはもちろん一切名前が載らない* のも変な話です。
( * 身分事項欄に記載すべき内容は戸籍法施行規則35条で規定)
国籍って何?
次女が日本国籍を取れなかったことで周りの人が逆にショックを受けたり、心配してくれたり、中には「それは酷い(私達親が)」と怒る人もいました。
が、親としての私は不思議と特にショックを受けていたわけではなく、国籍なんてそんなもんかと客観視をしていたようなところもあります。妻にとってもそんなにとんでもないことではなかったようです。(多分)
妻も私も次女が生まれた時点ですでに海外生活も長く、ヨーロッパにいると周りには様々な国籍の人がいますし、2重どころか3重や4重国籍の人もいるし、特に途上国の出身者ではドイツや他のヨーロッパの国に帰化している人もたくさんいるので、日本にいたころとは国籍に対する意識も変化したかもしれません。
ただし、日本の国籍がないとしてもドイツの国籍があるので特に心配もなかったわけで、それはドイツという国は世界の中で十分に強く安定している国ですし、ドイツやヨーロッパのパスポートなら日本同様に強く、ビザなしで訪問できる国の数は対して変わらないからです。
もしパスポートの弱い国や途上国に国籍しか取れなかったとしたら、その場合は日本に住所をおくことで日本国籍を回復することもできるのでそうしていたと思います。ただしこの場合には、日本に長期滞在できる在留資格があり6ヶ月以上滞在していることが多くの法務局で要求されているようです。
国籍法第十七条 第十二条の規定により日本の国籍を失つた者で二十歳未満のものは、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。
島国の日本にいると (本当は違うが一応) 単一民族国家でひとつの言語を話し、今まで国境が大きく変わることがなかったので分かりにくいのですが、ヨーロッパでも多くの国は戦争により国境は大きく変化しました。ドイツ・フランス間で国境が移動していたアルザス地方の人はドイツ語フランス語もしゃべりますし、オーストリアに面する北イタリアの南チロルではドイツ語も通じます。中東は欧米の都合によって国がつくられ、アフリカなんかは緯度経度線で適当に国境線を引かれて国ができたりしています。ヨーロッパでもベルギーのように自国の固有の言語がない国もあれば、共通語は元植民地宗主国の言語である英語やドイツ語、オランダ語の国もあります。
そもそも現在ある国民国家としての「国」の概念などナポレポン以降のたかだか数百年程度の歴史しかありません。それまでは軍隊というのは傭兵で雇われだったのですが、国民国家という概念をつくり愛国心を持った国民からなる軍隊は殉死をいとわず、プロの傭兵なんかよりもナポレオン軍は全然強かったわけで、だからこそその後ヨーロッパ全体は国民国家化していったのです。
国籍はその国の法律によって付与されたり奪われたりすることもあるもので、人間が本来持っていたものではないわけです。
しかし自分の国籍にアイデンティティーを強く感じたり、感情的になる人も多くいます。国籍選択*をせまられ、父親の国か母親の国かどちらかを得ればなければならないのは精神的な苦痛を感じる人もいます。
そのような国籍とは一体なんなのでしょうか?
* 日本の国籍法では重国籍となったものは国籍選択の義務があることなっているのですが、実際には重国籍を維持することは可能です。これはまた別途記します。
ドイツへの帰化
冒頭に書いたように私自身はドイツに帰化することにしました。ドイツに住んでいる以上自分にとっては日本国籍であることよりもドイツ国籍があることのほうが自分や家族にとってメリットが大きいと考えたからです。ドイツ国籍があればヨーロッパ市民になるのでEU内のどこに住むことも仕事をすることもできます。
国籍があれば自分が今後も生活し、子どもたちが育っていく国の選挙権が得られます。私たちはドイツではある意味立場の弱いマイノリティーの外人ですからせめて選挙で一票を投じたいものです。
家族を守るためにも重要です。いざとなればドイツという国がまず守るのはドイツ国籍を持つ人です。滞在権を持つ人は二の次になります。
実際、コロナ禍でフライトが飛ばなくなり、休暇先の外国から帰国できないドイツ人が2万人ほどいた時に、ドイツ政府がチャーター便でドイツ人を連れ戻したのですが、ニュースできいた「ドイツ人」という言葉ではてと思い調べてみると、外務省の公式サイトにはっきりと「ドイツ国籍」がある人がまず優先、滞在ビザ保持者はその次と書かれていました。
そして、条件を満たせば日本への再帰化は一度だけ可能です。ですから例えば老後は日本で過ごすことになって本帰国をしたならば再び日本国籍の取得ができるのでその分外国籍を取るリスクは少ないといえます。
以上のような理由でドイツに帰化したのですが詳しくはまた別に書く予定です。
ということでドイツに住む我が家族は
・私 : 日本生まれでドイツに帰化、ドイツ国籍
・妻 : 京都出身と言うが本当は宇治の人
・長女 : ドイツ生まれで日本・ドイツの二重国籍
・次女 : ドイツ生まれでドイツ国籍のみ
と、全員異なる国籍状況となったのでした。
長女のような二重国籍者は複数国籍を維持することができるのですが、その詳しい方法については以下に書きました。
参考資料
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