![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/55608793/rectangle_large_type_2_61c24f4e6fd2e537a949e07391b80dd8.png?width=1200)
世界をリードするニュージーランドの農業
本日は世界をリードするニュージーランドの農業についてお話しします。
みなさんはニュージーランドの最大輸出品目をご存じでしょうか?
チーズやバターといった酪農品です。ニュージーランドでは園芸農業、畜産業と並んで、酪農が広く営まれていることが有名です。
さてニュージーランドで酪農が発達する「土台」はいったいどこにあるのでしょうか?
酪農とは、牛や山羊などを飼育し、チーズやバター、生乳などの乳製品を生産して販売することを目的とした農業です。産業革命以降のヨーロッパにおいて広く発達しました。
産業革命は、蒸気船や蒸気機関車などの登場によって、遠隔地からの短時間・大量輸送が可能となった時代です。これは新大陸からの安価な穀物輸入を可能にしました。
安価な穀物が輸入されてきたヨーロッパでは農家が大打撃を受け、農業経営の改善を迫られたのです。そこで肉類の販売に特化した農家は混合農業を、野菜や花卉(かき)の販売に特化した農家は園芸農業を、乳製品の販売に特化した農家は酪農をそれぞれ始めました。
特に北緯50度より北部はかつての氷食地であるため、穀物栽培が困難な地域でしたが、夏季の冷涼な気候を活かし、酪農が発達します。ドイツ北部やデンマーク、ポーランドなどはまさしくその典型例です。
そして大事なのは、酪農は近郊農業だということです。近郊農業は、大都市近郊で発達する農業のことで、大市場となる大都市への出荷を目指します。
これは「輸送コストを低くすること」と、「輸送時間を短くすることで高鮮度を保持すること」が目的です。
ニュージーランドの「豊かすぎる」自然環境
ニュージーランドは温暖で降水量が豊富な国で、永年、牧草に恵まれます。国土面積に占める農地の割合は42.1%で、さらに農地面積のうち91.8%が牧場・牧草地です。
牧草に恵まれるということは、牛舎や飼料が要りません。
広大な牧草地を囲って、そこで放牧しておけばよいのですから、舎飼いのための大規模な牛舎を建設する必要がありません。さらに放牧している牛は糞尿を垂れますので、これは天然の肥料となります。
ニュージーランドは年中平均して雨が降りますので、明瞭な乾季がありません。そのため、常に牧草が生育していますし、土壌中の水分も絶えず供給されますので不毛地となることはありません。
これほどまでに人間の手がかからない農業経営も珍しいのです。
経営コストを低く抑え、労働時間を短くできるという利点があります。
これらすべてが、ニュージーランドで酪農が発達する「土台」なのです。
最近では、牛の泌乳量を増やすために牧草以外の飼料を与えるなどの改善も進んでいます。
ニュージーランドは平均年収が4万5817ドル≒500万円(2019年・世界第18位)とかなり高いのですが、国内人口は約490万人しかいません。国内市場は小さいといえるでしょう。
それゆえに輸出志向型の農業経営が見られます。
ニュージーランドは酪農の他に、園芸農業や畜産業も発達しています。
特に羊の飼育頭数は2682万頭と、人口の約5.4倍もの羊がいます。
世界第2位の羊肉輸出国であり、世界合計に対して33%、第1位のオーストラリアが36%ですから、2ヵ国で69%を占めています。
ちなみに、牛は1015万頭で、人口の約2倍です。
肉類は貴重な輸出品目で、1882年の冷凍船の就航から世界市場への輸出が始まりました。冷凍船の就航は高鮮度保持を要する肉類の輸出を加速させたのです。
日本が学ぶべき文化とは?
ニュージーランドの酪農は低コスト経営が可能だとお話ししました。
利益を最大化できる酪農は人気があり、就農を希望する若者が多いのです。
しかし、いきなり広大な土地を取得することはできません。そのためニュージーランドでは若者が高齢の経営者から土地を借りて、借地農として「酪農デビュー」します。利益は折半です。
ある程度技術を身につけ、資金が貯まると土地を購入して独り立ちします。そして自分が年老いたとき、また次世代の若者に土地を貸すのです。
世代交代が上手くいくことは、持続可能な経済発展の最重要課題といえるでしょう。日本におけるバブル崩壊後の「失われた20年」は、世代交代が上手くいかなかったことも原因の1つかもしれません。
若者たちは、ときに迷い、壁にぶつかり、そして明日を夢見ています。そんな若者たちが次世代を創ります。
人はいつか、そんな若者たちを支える側に回るときがきます。
ニュージーランドに学ぶべきは、実はこういうことなのかもしれません。
「土地」と「資源」の奪い合いから、経済が見える!
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な大流行によって、各国の政治リーダーの力量や人間性が試されている。そんななか、評価を高く上げているのがニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(39)
経済を動かしているのは地理である。
世界の経済情報を観察していると、そう思えることが多々あります。
なぜ、土地も資源もない日本が経済大国になれたのか?
なぜ、中国は2015年に一人っ子政策をやめたのか?
なぜ、トランプ大統領はTPPから離脱したのか?
これらの因果関係を解明するヒントは「地理」に隠されています。
地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、交通、人口、宗教、言語、村落・都市にいたるまで、現代世界で目にする「ありとあらゆる分野」を学びます。
「地理」を英訳すると「Geography」です。これはラテン語の「Geo(地域)」と「Graphia(描く)」からなる合成語といわれています。
現代においては、写真を1枚撮るだけで、自然はもちろんのこと、そこで暮らす人々の衣食住、土地利用など、実にさまざまな情報が写し出されます。
しかし、カメラが存在していなかった時代は、これらの情報をすべて描き出していたのです。まさしく「Geo( 地域)」を「Graphia( 描く)」。これが地理の本質なのです。
地理とは、表面的な事実の羅列ではありません。「地域」に展開するさまざまな情報を集め、分析し、その独自性を解明するものです。
経済の本質とは?
人間の行動は、土地と資源の奪い合いで示されます。当たり前のことですが、土地と資源には限りがあるからです。有限だからこそ、需要と供給によって価値が決まります。
戦国時代、大名たちは限りある領土を奪い合い、「国盗り物語」を描きました。どこかの大名の領土が増えれば、領土を減らす大名がいたのです。土地と資源の存在が、経済を創り出します。だからこそ需要が生まれ、争奪戦が始まるのです。
地理では、さまざまな要素がかかわり合って「物語」が成り立つことを「景観(けいかん)」といいます。現代世界を単なる出来事として頭に残すのではなく、「誰かに話したくなる」ような、背景知識を持っているだけで世界は面白くなります。