アドレスを消去する悲しみ…
相模の海の夕間暮れ…彼方の山並みに渡る遠雷の声…友を焼いた想い出が… その楽しき日々を忍びながら、握りしめるスマートフォン
その真白き画面には、友の懐かしきアドレス…それを涙で消去する切なさ…辛いものだ。普段は涙など無縁な俺が咽ぶ
子供の頃から人前で泣いた記憶はない。自分の姿に自分で驚いているのだ。突然逝ってしまった親しい友だった。その彼を送り、心まで整理して…今。
彼のアドレスを消さなければと云う強要…なぜだかは知らない。その観念が俺の胸に溢れたからだ。
そそっかしい俺は、これまでにも彼のアドレスを数度押した。そして… 「お客様のご都合により通話ができなくなっております」
慌ててOFFにする。確かに彼は自殺したのだからお客様のご都合により… だからなのだが。なんだか悲しい言葉だ。
あの世の彼に迷惑がかかりそうで…それで今、断腸の思いで彼のアドレスを消去するのだ。切ない。
大きく深呼吸するが、最後のポチリ…右手の人差し指が動かない。俺はその人差し指を口にくわえて強引に消去ボタンを押した。
これでゴルフの好敵手が居なくなっちまったなぁ。やっとスクラッチで勝てるようになったのになぁ。お前は俺にゴルフで負けたくなくて自殺しやがったのか!
春雷の西風に乗って細かい雨が降ってきやがった。俺は泣いてねーぞ! 泣いてねー!起き上がったら頬が濡れていやがったよ。