直角を失くした男
自宅の便座に腰かけてあてどなく視線をさまよわせていると、狭い空間ですからどうしても目の前の扉にぶつかります。私はすこし開けた扉(地震が起こると開かなくなるという話を聞いてから習慣になりました)の上部の小窓をぼんやりと眺めていました。すると突然、気づいたのです。
どう見ても扉のカドが直角ではない。あと、扉開けすぎ。
さらに言えばそれを受け止めるはずの枠(?)はこれまた別の角度を形成していて、ぴったりと合うはずがないことは明白。しかしこれまで扉は正しく収まっていて、隙間が生じることなどなく……自分がどうかしてしまったのかと思いました。
三角定規をあてがってみると扉はおよそ120°、枠は100°くらいであることがわかります。
なんで????
扉のカドが直角であることは自明です。それなのに今は直角ではなくなっている……。おそらく見る角度によって扉のカドの角度が変わるということなのでしょうが、ではなぜ見る角度が扉のカドの角度に影響するのか、がわからなくなってしまったのです。
私は数学が苦手です。学生時代しばしば犯したミスとして「変形した式を元の式に代入して”無”にする」というものがあります。いくつかの変数の値を求めるためにいくつか式を立て、あーだこーだとしているうちにそれらが数学的混沌の秘奥を目指して蠢きだし、二次式が四次式に変わったり、すべての値がゼロになったりということが私の解答用紙上ではよく起こりました。
ここでも同じことが起きたようで、「見る角度」と「扉のカドの角度」が混濁して私を襲います。私には「見る角度が違うんだから、角度が変わるのは当たり前」というのは全く納得できない。なんで????
そんなことを友人に言ってみたところ、「2次元の直角を3次元で捉えたらそりゃ違うわな」とのことでした。なんとなくわかるような気もします。私も立体と平面が何か悪さをしていることはうっすら感じていました。じゃあなにか、直角っていうのは2次元の概念で、3次元には存在しないということ……?どういうこと????
トイレを出た私はさらに恐ろしい事実に気が付きます。自室に戻って扉を眺めやるとこんな景色が見えました。
なんと今度は扉のカドが鋭角になったのです。三角定規を当ててみると、
このようにほぼ60°です。先ほどの扉が120°だったことを考えると、「内開きの時の角度+外開きの時の角度=180°」なのかもしれません……これを私は「外角の定理2(つー)」と名付けました。
さらによく観察すると、扉を大きく開けば開くほどその角度が急峻になることがわかってきました。これは恐ろしいことです。かつてインターネットには「豆腐の角に頭ぶつけてタヒね」というスラングがあって、これは今の言葉にすると「ご自愛ください」くらいの意味なのですが、頭をぶつけるどころか、角度によっては豆腐のカドに刺突されてタヒぬ可能性があるということをこの結果は示唆しています。
少し落ち着かなければいけません。私は麦茶を飲もうと冷蔵庫に近づきました。するとさらに驚くべきことが起こったのです。
直角が3つ集合したはずの冷蔵庫の角が円形を描いている……もうだめかもしれません。私はとうとう直角を失くしてしまいました。
………
立体と平面における悪さとはなんなのか考え、扉の周りをうろちょろとしていたところ、どうやらこんな風だということがわかってきました。
と、ここで急に「キュビズ(ス)ム」という文字が脳内に浮かびます。
キュビスム作品の基本的な描画方法は、対象となるオブジェクトは分析された上、解体され、抽象的な形で再構成される。再構成される際にあたり、これまでの絵画のように単一方向の視点から描くのではなく、複数の視点から対象を描くことで、より大きな文脈から主題を多数の視点から描写する。
出典:Artpedia キュビスム / Cubism
ピカソらが創立したとして高名なキュビズムは(よくわからないのですが)、三次元の立体である主題を二次元上の絵画に落とし込むために対象物を複数の要素に分解して並べていくんだそうです。人参を輪切りにしてフライパンに並べてグラッセにするようなものだと思います。全然違ったら全然違うよって言ってください。
私にはそれの逆がこの世界に起きている気がします。視覚が捉える平板な二次元世界のため、三次元世界が複数の直角を用意しているのではないか?
つまり120°の世界から眺めると120°(120°の世界の直角は120°で間違いない、これを仮に「直角’120」と呼ぶことにします)で、60°の世界から眺めると60°(60°の世界の直角は60°)でどちらも直角になっている。
90°の世界に代表される「直角」という概念はあらゆる角度の世界の「直角’」を抱合して、あるいは重なり合って、出来上がっているのではないでしょうか?
↑なに言ってんだこいつ。
今またトイレに行ってから読み直したら本当に意味不明だったのですが、とはいえ違う理解ができたのかと言えばそうではないし、結局見る角度と物体の持つ固有角度の関係はわからず仕舞いというか、もはや何がわからないのかもわからない状態になってしまいました。
せっかくなので私の考えた「あらゆる直角が重なり合う扉」を描いてみました。一つ言えるのは、これがキュビズムではないということです(キュビズムとは明暗法や遠近法を用いない立体表現のことなので)
自分が一体何に納得していないのか考えていくうち、こんな例に行き当たりました。
1枚のまっさらな正方形の折り紙を対角線で折ります。そうすると真ん中にできる4つの角は直角で間違いありません。ではその頂点をつまんで持ち上げるとどうなるでしょう。
あまりにイラストが下手で伝わらないかもしれませんが、折り紙の縦幅が押し潰れて、かつて直角だったものが90°ではなくなってしまったのがわかると思います。
これがよくわからない。折れた面の角度を測れば90°なのに、上空から見るとなぜだか90°にならない……。なんで????
………
結局答えは分からないままです。自分でもよくわかっていないため、2chの「モスバーガーのきれいな食い方を教えてくれ」の>>36みたいになってしまいました。
なぜ直角の見え方が視点によって変わるのか説明できる方がいたら教えてください。本当にお願いします。
まずフクロを開けるだろ、そうすると最初、
円くなってる四角なわけだ。(袋だから)
で、上の左手で持っているところの端と、
右手で持ってるとこrの逆の端を重ねるだろ、
で、くるっとやると、ちょうど来るわけだ、下のところが。
(あまえらの言うソースのよくたまるところ)。
で、(ゆっくりと)まわすんだ。きちんとな。ぴったりと。
そうると、さっき逆だった所、りようほうが開くから、
本当じゃなくてそっちから喰え。つまり今開いたところな。
わかったか?
出典:モスバーガーのきれいな食い方を教えてくれ
あまり関係ないかもしれませんが、4次元~7次元を描く方法だそうです。私には「いや3次元じゃん」としか思えないのですが、これはこれでよくわからないのでぜひ教えてください。
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