「万人に便利なモノは悪人にはもっと便利」なのでプラットフォーマーとしてのAppleの企業姿勢に私は好感が持てる。
『もちろん、日本も個人情報の盗難が問題になっていないわけではない。最近、忘れる暇もなくニュースになっている詐欺事件の多くは、個人情報の盗難を起点としている。いくらパスワード設定で気を付けても、誕生日や母方の旧姓といった個人情報が漏れるだけで、知らなくてもパスワードを簡単に再設定できるサービスがまだまだあるし、いつもどんなお店に行っているのかといった個人情報が分かってしまうだけで、アカウントの盗難やなりすまし、最悪の場合は、あなたが大事に隠していた情報がゆすりのネタに使われたり、最悪の場合はお金が盗まれたりするようなことにもつながりかねない。そんな危険な時代だからこそ、世界中の数え切れないほどの個人だけでなく、政府/国家や自治体なども依存しているプラットフォーム技術を持つ会社は、他社よりも何倍もセキュリティ対策、プライバシー対策もしっかりとしなければならない。それにも関わらず、IT業界ではこれまで20年近く、多くのプラットフォーマーがどちらかといえば個人情報を搾取する側に回っていた。~しかし、ユーザーが検索した内容に応じて広告を表示したり、ブログやニュースサイトで閲覧している記事内容に合わせた広告を表示したりするなど、「最適化」をすることで広告のクリック率が大きく上がることに気が付き、その後、電子メールサービスもメールの文面に合わせた広告表示をするなどして、最適化のために獲得する情報量が次第に増えていった。~その中には、Facebookなどのソーシャルネットワークも含まれる。そしてそれぞれのサービスが、自社のサービスの利用を通して得られるユーザーの行動の観察結果を当たり前のように収集して、より正確な広告ターゲティングを行うためのデータとして売買していた。ユーザーの購買活動と直接の接点を持つECサイトでは、ユーザーがどんな商品を検索/閲覧しているかといった自社内での行動を観察するだけでなく、ブログ執筆者やニュースサイトに商品を宣伝させるアフィリエイト広告を提供し、これを通してユーザーがどのようなサイトを渡り歩いているかの情報も収集した。インターネットの世界では、ユーザーに無料で情報を提供する代わりに、その行動履歴の情報を収集しまくって、そのデータを商品として利益を得る行為が当たり前となっていた。そんなところにビッグデータやAI(正確には機械学習)のブームが到来し、他社に負けない最適化を行うために、さらに多くのユーザー情報を獲得するという行為が加速する。そのおかげでまるで「魔法」のように、ユーザーが求めていることを理解し、提供するサービスが増加した。その一方で、どこかを訪れると、訪問先に関連した広告がスマートフォンに表示されるようになり、人によっては「気持ち悪く」感じる現象が増えた。さらなる副産物として、先に紹介したケンブリッジ・アナリティカなど、プラットフォーマーから得た情報を元に、ユーザー心理を分析して最適化した広告が政治利用されるような事態まで発生している。いよいよ、社会問題として取り上げざるを得なくなってきた。こうしたIT業界の紆余曲折の中、Appleはほぼ一貫してユーザープライバシーを守る側にあった。Apple自身もiAdという広告ビジネスの展開を目指していたこともあるが、それすらiOS機器の普及率の高さに依存し、あまりターゲティングを行わない広告モデルを目指していた。これには2つの理由がある。1つは、よく指摘されるように、そもそもAppleが他のプラットフォーマー企業のように、収益源として広告モデルに依存しておらず、ハードウェア商品の売り上げを基盤としていること(最近、プライバシー保護の議論が盛り上がってきたこともあり、Googleなども積極的に自社製ハードウェアを開発し、Apple同様のモデルに転じようとしている)。もう1つは、Appleの共同創業者であるスティーブ・ジョブズの哲学や姿勢、そしてAppleという会社の成り立ちに関係がある。収益モデルに関してはMicrosoftやIBMなども同じで、そもそも1990年代中頃のインターネット商用利用開始以前からあるIT企業の多くは、広告ではなく商品やサービスの販売を収益源としているが、その中でもAppleはとりわけ1つ1つの製品をしっかりと作って、しっかりと売り、そこから利益を得るモデルを維持してきている。ジョブズの姿勢や哲学という視点では、ジョブズは一貫してユーザーのプライバシーを脅かすべきではない、という立場をとってきた。~そんな時代、コンピュータを民主化、つまり1人1人誰でも使えるようにし、個人でもこのコンピュータを使って政府と同じくらいの力と自由を手に入れられるようにする、というのがAppleを含む1970年代の「パーソナルコンピューター」、つまり個人の能力を拡張するコンピュータが誕生した文化的背景であり、実際にこういったコンピュータを使って政府のネットワーク網に侵入してイタズラをするハッカー達も、こうした文化的背景から誕生している。このような文化的、歴史的背景からも、ジョブズは常に国家などの大きな組織が、その力を使って個人の情報を搾取することには反対、抵抗する姿勢を持った人物であり、Appleでも一貫した哲学として、個人情報は必要以上には収集しないスタンスが守られてきた。~情報収集者がユーザーの知らないところで勝手に情報を収集できないように、情報収集者が、例えばさまざまな記事に表示されるソーシャルメディアを使って情報を共有するためのボタンであったり、コメントを書き込む欄を使ったり、サイト横断で情報を入手しているといった手の内を明かすと、Safariでは、そういったサービスに個人情報が渡る前にユーザーに「本当にいいのか?」と注意を促す機能が次々に搭載され始めた。~しかし、それでも他社の取り組みはまだまだ、というのがAppleのスタンスだ。環境保全の取り組みで、厳しいヨーロッパの基準よりもさらに高い基準を自らに課して実践してきたように、プライバシーの取り組みについても、プラットフォーマーであるからこそ、業界で最も厳しい基準を設けて実践するだけでなく、プライバシーの保護がいかに大事で、その際にどうしたことに注意すべきかを注意喚起すべく、今回のセキュリティについてのWebサイトの全面リニューアルやホワイトペーパー公開、といった動きにつながっている。ここで誤解してほしくないのは、Appleは何も機械学習の発展など、データーの収集そのものを否定しているわけではないということだ。一度、これはOK、これはダメという厳しいガイドラインをしっかりと作っておいて、その上でそのガイドラインに沿って行う情報収集については、逆にAppleもこれから積極的に行っていく模様だ。その象徴とも言えるのが、「Find My」サービスを使った、Macの検索機能だろう。macOS Catalinaでは、GPSなどを搭載しないはずのMacだが、常にBluetooth機器と接続するためにBluetoothの信号は出し続けている。置き忘れや盗難にあったMacのそばを誰かのiPhoneなどのApple製品が通ると、その信号をキャッチしてAppleのサーバに知らせて位置情報を特定する。ただし、その際にそれが誰のMacであるかを特定できない工夫がされていて、誰のiPhoneが発見したかも特定できない仕組みで、ただMacがどこにあるかの情報だけが持ち主に届く。持ち主は発見してくれたiPhoneの利用者にお礼をしたいかもしれないが、どんなにお礼をしたくても、発見した本人も知らなければ、Appleでもそれが誰であるかを特定できない。そこまで徹底したプライバシー保護のガイドラインに沿った形であれば、逆に積極的に情報を活用していこうというのがAppleのスタンスだ。「何も、情報収拾を全てやめろ」というわけではない。こうしたガイドラインなしで、誰も読まない冗長な確認事項を表示するだけで、個人情報を収集するとなし崩しになって、冒頭で紹介したケンブリッジ・アナリティカのような悪用を生みかねない。それは20世紀、空気を汚し、汚い水を垂れ流し、たくさんの公害を生みながらも「経済のため」といってまい進してきた工業化の失敗を、デジタルの世界で繰り返すのに等しい行為だ。もちろん、この行為において、あのAppleですら失敗は犯す。つい最近、Siriの性能向上のために行っていたユーザー音声の録音が許可なく、分析を行う他の会社に流れていたことが発覚し、大ニュースになった(Appleは収集した声は誰のものだか分からない状態になっていたと弁明している)。最新のOSでは、この情報収集に参加するか否かの分かりやすい確認画面がiOSの初期設定時に表示されるようになった(実は分かりやすい、読みやすい形で許諾を取ることも、個人情報保護の大事な要素だと筆者は思う)。この失敗を踏まえて、ますます個人情報の保護には厳しく努めるというApple。』
一番危険なのは「自覚のない奴隷」であってユーザーの知りえないところでデータを収集するだけ収集しておいて「自分たちが使えそうなら使っちゃえ!」というご都合主義的な場合、漏洩したことにすら気づかないのだ。「万人に便利なモノは悪人にはもっと便利」なのでプラットフォーマーとしてのAppleの企業姿勢に私は好感が持てる。
Appleは何故、ここまで声高に「プライバシー」保護を叫ぶのか?
https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1911/07/news046.html