実践!事業法務の進め方
目次
1 伝えたいこと
2 私の経歴
3 事業法務のパターン
4 相談フロー
5 初めて相談を受けた時のチェックポイント
6 どうすれば事業担当者と仲良くなれるか?
7 余談
1 伝えたいこと
「契約は、結局ヒト・モノ・カネの流れ」
「事業を徹底的に知る」
「速さと質のバランス」
2 私の経歴
私は大手メーカーのコーポレート部門の法務部で、既存分野の事業支援法務、子会社の新規ビジネス検討のサポートなどを行っていました。併せて、知財分野のサポートも行っていました。
主には、契約内容の検討、法律抵触性に関するリサーチや検討をしていました。
3 事業法務の仕事の内容
事業法務といっても様々な種類があると思います。
私は主には以下のものが多いかなと思います。
①既存契約の巻き直し(変更ポイントの確認)
②新規パートナーとの契約(ヒトモノカネの流れの把握)
③ビジネススキームの社会適合性検討(強行規定違反のリスクとレピュテーションリスクの確認)
④各ビジネスを追い続ける・今後のリスク検討(知的財産や個人情報の管理など)
4 相談フロー
私の場合は、①上司から仕事が回ってくる②担当部門から直接メールや電話で依頼がくるのいずれかでした。基本的には相談の概要だけメールなどで把握して、打ち合わせをして、今後の方針を決めるものが多かったです。
5 初めて相談を受けた時のチェックポイント
協業する企業とは以下のような流れで契約交渉が進みます。物の製作をベースに考えてみましょう。
物作りの事業化を社内で検討(届出などが必要なビジネスかチェック)
→パートナー選定(第三者に任せるとコンサル契約)
→お顔合わせ
→打ち合わせ
→事業相談や提案を相互に行う(秘密保持契約)
※コンペなどが行われる場合もある
→プロトタイプの作成 (製造委託契約)
→プロトタイプの修正 (製造委託契約の変更覚書)
→プロトタイプの修正2 (期間変更覚書)
→あっ、やばい、工場探さないと!!!
海外の工場選定(NDAと製造物や金型の権利関係の整理)
→プロトタイプの最終版と工場決定(三者間で製造委託契約、輸送輸入関係の取り決め、輸入の際の規制調査、特許や意匠などの抵触性調査など)
→ブランド決定(商標権の抵触性調査)
→ローンチ時期の決定と社内意思決定
※ECサイトでの販売か小売店での販売かなども併せて意思決定が必要
→量産前プロトタイプの確認
→あっ、納品検収の方法考えるの忘れてた!
(製造委託契約の変更覚書で納品検収について取り決める)
→物流業者や倉庫運営業者との打ち合わせと契約締結(業務委託契約)
→広告宣伝の方法検討と決定(業務委託契約と景品表示法チェック)
→顧客情報の管理方法の検討(個人情報保護法ガイドラインの確認)
→ホームページ製作(ECサイトやホームページの利用規約、プラバシーポリシーの作成、特商法の確認)
→説明書の確認(説明書作成のマニュアル、PL法の確認、消費者庁のガイドラインの確認)
→パンフレット、商品の梱包用の箱や段ボール(景表法や商標のチェック)
→量産開始、納品、検収、流通
→ローンチ
→わー!商品に欠陥!返品!(業務委託契約書の内容確認、、よかった、、契約不適合について書いてた。)
振り返ると
契約が多い、、法律チェックも多いですね、、
本当に簡単にですが、こんな感じかなと思います。
※新規ビジネスのために会社立ち上げるのであれば、会社設立のフローが間に入ってきます。会社設立する場合には、就業規則、責任権限規程、費用精算規程などの社内規程の整備などが必要になります。
※最終のプロトタイプが出来上がったのに、量産段階で揉めてしまって解約するなど、事業がストップしてしまいかねないないようなこともあるので、注意です。
上記のようなフローで事業化が進んで行きます。
法務としては、以下の内容を検討把握するのが大切かなと思います!
①今やろうとしていることの把握
②これからやろうとしてることの把握
③目の前の契約におけるヒト・モノ・カネの流れを把握(モノには情報も含まれます)
④契約相手方と仲悪くなったときのセーフティーネットの検討
⑤強行法規や社内規程に違反しないか
⑥他の部署や他の担当者が似たようなことをやってなかったかなあと思い返して、頼れるところを思い出す
契約条項の確認は、世の中に良い本がたくさんあるので、それを確認すれば、ある程度落とし所は考えられるかなと思います。
6 どうすれば事業担当者と仲良くなれるか
私は、3つを意識していました。
①自分も事業担当者であると思い込み、事業を徹底的に理解する
②ミッションビジョンに共感する
③速さと質を高める
①事業を理解するには、ひたすら担当者とお喋りしてください。時間ができたときに、担当者の人のデスクまで、よくふらーっと雑談しにいってました。何かないですかー?って聞いていました。机に企画書が転がってたら、よかったら見せてくれませんかーとか教えてくださいよー!とお願いしていました。
上司には、よくこう言われていました。
「相談してもらうスピードを上げるには、油売りが一番いい」
あとは、担当者の方にお願いして、レポートやプロトタイプなどの成果物を見せてもらったり、実際に打ち合わせに混ぜてもらったりしていました。
※打ち合わせに急に法務が混ざると、相手はすごくびっくりするので、事前に調整の必要はあります。
②誰でも子どもを育てるように事業を育てています。何にも知らずに、批判されると相手も壁を作ってしまいます。なので、相手のことを知って、しっかり共感できる部分を大切にして、それを伝えてください。ミッション、ビジョンが全くない事業はないのですから。
その事業が自分の子どものように、担当者と一緒に育てていきましょう。
③できる限り早く丁寧に返す。8割くらいで返して、何回かやりとりする方が実は効率がいい。契約には必ず相手方がいるので、相手の要望を把握してやりとりしないことには、進まない。なので、こちら側の要望を反映できたら、たらたらせず作って、担当者に見てもらって、すぐに相手方に戻す。担当者もボールを持っていたくないので、喜んでくれるし、相手方との信頼関係にも繋がります。
※単に契約書ドラフトを送りつけたりせず、電話でフォローするなどは心がけていました。
※法務の意見を押しつけず、担当者や担当部門の意向を反映させるように意識していました。
以上、今回お伝えしたいことは、
「契約は、結局ヒト・モノ・カネの流れ」
「事業を徹底的に知る」
「速さと質のバランス」
です。
7 余談
・法務は社内資源活用のキーとなる
法務は、比較的信頼してもらいやすいので、部門間を繋ぐハブになれると思います。似たような研究や契約などをやっていたりをすぐ知れるので。担当者同士を繋いだり、リスクを共有したり、社内資源を活用するために、法務ができることはすごく多いと思ってます。これは前の職場すごく意識されていたことで、私も大切にしていこうと思っています。
・法務が成果物を見ることの大切さ
成果物として素晴らしいもの見れば、間違いなく勉強になるし、経験にもなるし、担当者との会話の種にもなります。一方で、実際に事前に想定していたクォリティのものが出てこなかった場合には、担当者と今後のパートナー選定について検討できますし、リスク回避のノウハウも溜まっていきます。また、他部門が同じパートナーを使わないとも限らないので、どのクォリティが返ってくるのか把握しておくことは大切だと思います。
・おすすめの書籍
「事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック」塩野 誠/宮下 和昌【著】東洋経済新報社(2015/09)
「契約書作成の実務と書式 -- 企業実務家視点の雛形とその解説 第2版」阿部・井窪・片山法律事務所/編 有斐閣
「新民法対応 契約審査手続マニュアル」
編集/愛知県弁護士会 研修センター運営委員会 法律研究部 契約審査チーム 新日本法規出版
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