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企業の法務部の強み

私は、東証一部上場のメーカーの法務部で勤めていました。知財業務と事業法務を担当していました。今回は民間企業の法務の仕事について、書いてみようと思います。

目次
・伝えたいこと
・企業の法務部って何するの?
・企業の法務部だからこそできること
・これからどうするの?
・おわりに

●伝えたいこと

・有資格、無資格は関係ない。
・有資格だからこそできることは、少ない。けど、それを見つけ、形にする。
・企業の法務部だからこそできることがある

●民間企業の法務部って何するの?

民間企業の法務部は、コーポレート部門に置かれていることが多いかと思います。各チームや担当とその内容を簡単に書いてみます!

・事業を助け、伴走する!ビジネス法務担当!

内容 契約書のレビュー、新規事業に関する法律相談、不動産に関する相談、環境影響に関する相談、契約関係のフロー改善、広告チェック、子会社設立支援、国内企業のM&A、国内訴訟対応、契約書に貼る印紙チェック等

細かく契約書をチェックしたり、プロジェクトのスケジュール管理したり、会社設立に関する登記の内容調べる、行政に法律解釈について問い合わせる、本でリサーチして報告書まとめる等があるかなと思います。
日頃は、法律相談と契約書チェックがメインなのかなと思います。取引相手とのミーティングで出て、契約交渉したりもあります。現場に1番近い仕事かなと思います。事業や技術への理解が求められる気がします。

・実践的な危機管理を実現し、会社を守る!経営法務担当!

内容 コーポレートガバナンス、グループガバナンス、社内規程の整備、個人情報の取り扱い、情報セキュリティ、株主総会支援、登記関係、取締役会議事録の作成、法務部内の取り扱い内容についての執行役員への報告、災害や疫病などの予期しない事態への社内外への対応、プレスリリースに関する相談、国内企業のM&A、ファイナンス法務等

社内規程やプライバシーポリシー作成などの法務業務ももちろんありますが、危機管理対応などより経営に近いところの仕事がメインなのかなと思います。対外的な発信をするための文書などのレビューが多かったりするのかなと思います。時間がない中で、スピード感をもって適切に意思決定する必要があるイメージです。経営陣、コーポレートの他部門との関わりが、ものすごく多いため、端的に説明できる能力、フットワークの軽さとファシリテーション能力が求められると思います。また、経営、財務などの知識が求められると思います。

・グローバルな取引に安心感を!カントリーリスクを把握し、グローバルなディールを実現する!国際法務担当!

内容 英文契約などのレビュー、海外企業のM&A、海外での訴訟対応、海外の個人情報対応、海外本社、支社、子会社などとの連携、グループガバナンス、海外取引の法律相談、海外進出でのカントリーリスクの精査

国際法務担当も、色々担当が分かれてる企業も多いかなという印象です。トランザクション、M&A、ガバナンス、リティゲイションで分かれてたりするところもあるのかな。海外本社や海外の顧問先との連携が頻繁にあるので、時差が大変な印象です。
取り扱う金額は大きく華やかな担当と思われがちですが、扱う金額に比例して責任も大きくなるので、プレッシャーもすごいと思います。マルチタスクをこなせる器用さ、スピードが大切なのかなという印象でした。リーガルテックが結構あるので、基礎的な語学力があれば、契約書のレビューやメール書いたりまではできる印象です。ミーティングとなった瞬間、冷や汗かくイメージです。

・法務部を土台から支える!総務人事担当!

内容 予実管理、経理業務、備品管理、セキュリティ対応、システム管理、残業管理、チームビルディング、採用、役員秘書等

法務部といえども、あくまで組織の一部門なので、総務や人事業務があります。法務部の中でも、部門を継続的に回していくためには、本当に大切な担当です。有資格者でも担当して、法務部の実情を把握することもあるではないでしょうか?各担当ごとで、予実管理をして、総務担当が取りまとめることが多いのかもしれません。採用やチームビルディングもチームメンバーの強みを活かすために非常に大切なことだと思います。法務部を組織として、強くする仕事です。

・人事部と連携して、働きやすい環境を作る!労務担当!

内容 福利厚生に関する相談、就業規則の見直し、解雇、懲戒、退職などの法律相談、労災に関する相談等

法務がやっているところもあれば、人事がやっていることもあるかなと思いますが、必ず連携するところだと思います。コロナ禍で、働き方が変わり、労務担当の重要性が高まってきているような印象を受けます。社内で、働きやすい体制を作っていくことに寄与できる仕事かなと思います。

・社内の技術者と技術を守り、育てる!知的財産担当!

内容 特許調査、商標調査、意匠調査、レポート作成、特許、意匠、商標などの知的財産の権利化、取得した権利の管理(他部門への問い合わせ等)、ライセンス契約、共同研究内容の検討、共同研究契約のレビュー、ライセンス契約の請求書作り、知財ポリシー作成等

社内の技術者と技術を守るために、調査→権利化→管理をするのが知的財産担当だと思います。また、発明段階で共同研究することもあると思うので、契約内容をレビューしたり、詰めたりすることも多いかなと思います。研究開発部門の人と関わることが多いので、専門用語の理解が必須です。また、特許明細書の内容を理解するためにも、自分の担当する技術分野の基礎的な部分の学習は必要になると思います。
知財に強い企業は、それがブランドになるため、対外発信をしていくことも多くなっているかなと思います。

・ビジネスから社会を変える!そのために、法律を変える!渉外(パブリックアフェアーズ)担当!

内容 ボトルネックになる法律や政策のリサーチ、政策提言、行政や国会議員への働きかけ、研究発表など

昨今、大企業の他にも、メルカリなどのメガベンチャーと言われる企業でもロビーイングを担当するパブリックアフェアーズ部門が生まれています。この部門が、SDGsへの対応なども積極的に担当している印象です。今、かなり注目されているところかと思います。
実際に、自分たちの会社で研究して、レポートやジャーナルを書いて、政策提言をしていく。行政などにも働きかけて、法律を変えて、社会を変えていく。そして、自分たちのビジネスを社会に浸透させる。その際には、もちろん法律以外の知識が必要で、公共政策、マーケティングなどのマクロな視点で物事俯瞰できる知識が必要になってくるかなと思います。

企業ごとに色んな担当があったり、もっと分かれてたり、もっとくっついていたり、色々かなと思いますが、ざっくりこんな感じかなと思います!

実際には、似たような部門があったり、法務部以外が上記の業務を担当してることも多いかなと思います。

また、実際に、これらの業務の全てを一人でやることはあんまりないのかなと思います。
訴訟については、顧問弁護士に依頼したり、特許の取得や侵害対応は顧問の弁理士に依頼したり。反面、法律以外に、チームのための事務仕事があったりもすると思います。私は、知財チームの予実管理の一部、雑誌や新聞の整理、知財管理システム導入、採用担当などもやってました。

●企業の法務部だからできること

上記の通り、弁護士資格がないとできない仕事ってほとんどないと思います。所属企業の代理人をやるときくらいかなと。インハウスロイヤーになって、弁護士資格なんてなくていいやんって思う仕事が多いという話もよく聞きます。

しかし、企業の法務部だからこそできることもあると思います。

・プロジェクトの最初から最後まで関わることができる!
・現場の人と一緒に悩んで、考え抜ける!
・チームで働ける!
・各部門のハブになれる!
・他部門の人と一緒に働けるため、専門外の知識経験が増え、視野を広く持てる!
・経営者の近くで働ける!
・顧問弁護士とディスカッションすることで専門知識も鍛えられる!
・社内の研修などを通じて、企業のリーガルリテラシー向上に寄与することができる!
・法務部以外に異動しようと思えばできる!

企業の法務部には、各企業ごとの魅力があると思います。先輩と自分の部門の魅力について、話をしてみると案外いい気づきがあるかもしれません。他部門の人たちと魅力を語り合うのもいいかもしれません。

企業法務である限りは、法律事務所と法務部が役割分担してるだけで、同じ内容を扱ってるかと思います。顧問先から出てきたレポートを理解しようと思ったら、勉強もしないといけないし、法律プロパーでワクワクしたりもすると思います!

●これからどうするの?

私は、社会を持続的によくしたい、チームで働きたいとの思いから、企業の法務部で働くことを選びました。

私の場合は前職時代の先輩方が優秀で、あんな風に活躍したい。だからこそ、司法試験合格という自分の武器をいかして、自分なりに勝負していきたいと思い、退職しました。

もし、あなたが課題を解決することではなく、紛争を解決することに魅力を感じるのであれば、法律事務所が向いてるように思います。
目の前の課題を解決することが好きなのであれば、法律以外の手段でも解決できればいいのですから、別に企業でも法律事務所でも、コンサルでも活躍できるのかなと思います。
あと、色々な企業の法律問題や課題を見て解決したい人も法律事務所が向いてる気がします。一方で、プロジェクトの最後まで見届けたい人は、企業での勤務も向いていると思います。

もし就活で迷っている修習生がいれば、入社、入所してみないと分からないと思うので、まずはたくさん情報収集した上で、最後は直観で選んでみればいいと思います。

すでに企業内でご活躍されてる皆さんで、資格があるのに、、と悩んでいる方がいれば、毎日やってきたことをほんの少し変えてみてはどうでしょうか?

顧問弁護士に投げてしまうようなことでも、自分でこだわって調べてみる。自社の技術への理解を深めてみる。ロビーイングの必要性について考えてみる。効果的な広告と景表法について考えてみる。

置かれたところで実力を発揮し続ければ、与えられる仕事の内容も変わってくると思います。
その時に、資格を活かすという発想ではなく、資格まで含めた自分だからこその付加価値に目を向けてみてはどうでしょうか?

私も最初は商標業務のみでしたが、スピードを意識した回答から信頼関係が生まれてきて、商標の相談と合わせて、取得予定の商標を使う事業の法律相談や契約レビューを頼まれるのになりました。そこから段々と業務の幅が広がり、社内規程作りや会社設立支援などの業務に繋がっていきました。

私は、弁護士資格がなくても、企業の法務部での仕事はできると思っています。
しかし、今まで学んできた法律知識、司法修習で学んだ事実認定能力、起案の能力、同期の繋がりなどは、企業で働こうが、法律事務所で働こうが無意味ではありませんし、自分の強みだと思います。

もっと色んな人を助けたい、街弁もやりたいと思う弁護士の方は、副業で事務所に入ったり、経営するチャンスもあると思います。そうすることで、知識、経験、人脈などを会社に還元できることもあるかと思います。

●おわりに

資格がなくても、企業の法務部勤めている人は多くいます。そんな中に、優秀で強い人はたくさんいます。
私の元上司や先輩も資格は持っていませんでしたが、MBAやLLMを取得するために留学されてたり、バイオの研究をやられてたり、営業出身だったり、その他の経験や幅がすごかった。

有資格者だからこそできることは少ないかもしれないけど、有資格者としての自分に自信を持って、謙虚に仕事はできるのかなと思います。

有資格、無資格とかで区別されるようなことがなく、それぞれの強みがいかせるような組織を作りたいし、そんな場所で私は働きたいと思います。

私は、企業の中で現場から信頼される法務部門こそが大切だと思っています。そして、リーガルリテラシーを持った人が各部門にいる状態で、かつ、法務部は専門家集団かつ経営と社会情勢を客観的に俯瞰できる部門というのが理想だと思っています。もはや、そうなると法務という名前が適切ではないのかもしれません。ミクロとマクロの視点を大切にして、これから、そういう体制作りや社内教育にも関われるといいなと思います。

-おわり-

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