教育データ取り扱いのポイント:補論(2)「目的」に沿った利活用
そろそろしつこくなってきましたが(笑)、先の記事の続きです。教育データの取り扱いについて、「目的」に沿った利活用について、教育現場から見たポイントを整理します。
GIGAスクール端末や学校が利用しているLMS(学習管理システム)で得られる教育データは、それらの設備やインフラが学習者や教育者が利用する目的に沿って利活用することが大前提です。データ利活用のあり方については、OECDが提示しているプライバシーガイドラインが参考になります。このガイドラインでは、
個人情報が利用される目的に関連していること
目的に必要な範囲とすること
データ収集に先立って目的を明確にすること
等が定められています。OECD加盟国である我が国にとっても、これに抵触しない形での教育データの利活用が求められます。
学校現場におけるGIGAスクール端末やLMSの利用目的は何でしょうか?文部科学省の説明によると以下の通りであり、学校現場における教育改善と高度化が目的と考えられます。
「教育データ利活用ロードマップ」に盛り込まれたような、教育データを教育学習の改善・高度化目的だけでなく、児童や保護者、家庭の見守り、地域・学校を超えたノウハウの共有など、個別の教育機関の役割以上用途で利活用することは、GIGAスクール構想を超える目的と考えられます。また、ロードマップのように利活用の範囲を広げすぎると、「目的に必要な範囲」のデータを定義することが難しくなり、これもOECDガイドラインの「データ収集に先立って目的を明確にすること」を満たすことが難しくなります。
また、教育データが多様な用途に使われうるという認識を、生徒や教師、保護者が持つことで、取得されるデータ自体が歪んでくることも考えられます。例えば、以下のような事例が想起されます。
LMSのアクセスログから生徒の学習時間帯がわかり、生徒の生活習慣が判明することから、保護者が子どもの評価を気にして、夜遅くのLMS利用を止めさせる。また、学校がログをもとにした学校自体の評価を気にして、生徒や保護者に対して夜遅くのLMS利用を控えるように指導する。
LMS上のビデオ視聴ログやテスト等の結果が、教育改善だけでなく、生徒の振る舞いを把握する指標にもなることから、生徒が「真面目な」生徒を装うためにLMS上での学習行動を変える(敢えてビデオを飛ばさないように「きちんと」見る、など)。
GIGAスクール端末のログが生徒の身辺調査に使われることを懸念し、検索履歴を「汚さない」ようにするために、生徒が興味に応じた情報検索や調べ学習を控える。
上記のような予期せぬ行動は、学校側が学習データを教育改善・高度化のみに用い、生徒や保護者、家庭の把握や評価に用いないと宣言することで避けることができます。しかしながら、現状のロードマップのように学習データが幅広な用途に利用されることが政府によって示されると、その副次的な効果を危惧して、利用者の行動が変容してしまうことが避けられません。
多様なデータを利活用することでよりよい社会の実現につなげていこうという意気込みは素晴らしいものですが、データを提供する学習者や教育者があらぬ誤解をしてしまい、せっかく構築した枠組みが生かされないとなると、大変残念です。政府には、利用目的を明確にした教育データの利活用を、OECDガイドラインも参考にしながらよく検討していただきたいと思います。
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