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Ep.13『自分との付き合い方』
自分との付き合い方(45歳、女性)
『こんばんは〜』
そう言うと私は空いているテーブルにつき、タバコに火を付けた。
一息吸ったタイミングで、マスターがいつものワインを自動的に持って来る。
私は週4日で派遣の仕事をしていて、出勤日はほぼ毎日このバーに来ている。
この店はちょうど帰宅電車の乗り換え駅で、家に帰る前についつい立ち寄ってしまう。
家に帰っても1人。
気付いたらワイン1本は空けてしまう為、逆に飲み過ぎてしまう。
それに1人になると、寂しさが急にこみ上げて来る時がある。
昨年、実家にいる父が他界した。
寒い雪の日だった。
外で倒れているのを兄が発見した。
救急車が来るよりも先に、父はもう戻ってこない事が分かったと兄が言っていた。
お別れは出来なかった。
最後に何話したっけな。
そんな思いがしばらく続いた。
お葬式後に東京にもどり、また変わらない生活に戻った。
しばらく実家に帰っていた理由をマスターに話した。
マスターはいつもと変わらず接してくれた。
それがとても安心出来た。
最近では、私も残りの人生楽しく生きようと思っている。
人生長く生きていると、死と向き合う機会が増えてくるのは分かっている。
家族、友人、好きだった映画俳優。
無事に天国からお迎えが来る人もいれば、事故や病気で急にこの世を去る人もいる。
私だって例外ではない。
普段は健康に過ごしているが、いつ交通事故や自然災害に巻き込まれるか分からない。
悔いの残る、あるいはそう思われるこれからの人生なんて御免だ。
『そういえばマスターっていつも平常心よね。ストレスとか溜まんないの?』
マスター『ストレスは溜まりますよ。解消の為に、運動したり美味しい物を食べたりして自分と付き合っています。そうする事で、いつもベストコンディションでお客様とお会いする事が出来る。』
『そうなのね〜、自分と付き合うか〜。』
以前から趣味だったヨーロッパ旅行も、最近は忙しさを理由に行ってなかったわ。
もっと自分を大切に、自分が自分を好きでいられるような人生にしたいわ。
きっと父も、遠くでそれを願っているはずだわ。
見ていてね、私これから自分の好きな人生を歩んで行くわ。
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グラス一杯の物語【シーズン2】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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