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Ep.12『ウィスキーの水割り』
ウィスキーの水割り(33歳、男性)
『こんにちは』
『マスター、いつもの水割り下さい』
俺の仕事はバーテンダー。
この店の近くで働いていて、共通のお客さんきっかけで、マスターとも仲良くさせてもらっている。
いつからか、出勤前に立ち寄るのが習慣になっている。
俺は初めて行くバーには、必ずウィスキーの水割りを注文する。
飲む物を固定する事で、自分自身の勉強にもなるし、本日の味覚確認が出来る。
そしてバーテンダーの力量も知る事ができる。
ウイスキーの水割りは、簡単に見えて難しい。
いわばカクテルの一種なのだ。
本来ストレートで飲むはずのウィスキーを水に溶け込ますことで、優しい口当たりと、ウィスキーがもつ香りが静かに立ち昇ってくる。
加える水は多すぎず、少なすぎず、冷やしすぎないのがコツだ。
そしてウィスキーによっても黄金比が変わる。
この店のマスターが作る水割りは美味しい。
勉強の為、以前から聞いてみたかった。
『マスター、美味しく水割りを作るコツってあるんですか?』
マスター『おいしくなれ。と願いながら作ることだね。自分自身が飲みたくなってしまう様な一杯にする事だよ。』
『そうなんですね。勉強になります。』
基本的な事だが、忘れがちな事だ。
うっかり自分が飲みたくなってしまう一杯。
それは飲み手の為に、美味しく出来たからだ。
誰かが自分の為に美味しく作ってくれた物って、美味しい。
それは料理も同じ。
『マスター、ご馳走様でした。』
『またうちのお店にも、水割り飲みに来て下さい。』
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グラス一杯の物語【シーズン2】
900円
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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