Ep.30『聞き上手の上』
(34歳、男性)
『ビールください。』
僕は週一回、この近くにある英会話教室に通っている。
教室の後は決まってこのバーに来るのが、楽しみの一つになっている。
通い始めて一年が経過するが、上達していると、今日は先生に褒められた。
日本人はつい、正確な英語をしゃべろうとする。
その為縮こまってしまい、話すことに消極的になってしまう。
上達するのに大事なのは、失敗を恐れずに英語を話すことだ。
使わないことには改善点が見つからない。
幸い僕は、会話に関して抵抗や苦手意識はない。
積極的に使っていくから、改善の速度が速いと先生は言っていた。
僕は元々人見知りする性格で、自分から他の人に話しかけるタイプではなかった。
そんな僕を変えたのが、学生時代のバイト先の先輩だ。
見た目はヤンキーみたいだったけど、料理に対して情熱があって、男らしかった。
面倒見の良かったその先輩に誘われ、バイト仲間達とよく遊んだっけ。
解散後に2人でアパートの前の階段に座り、好きな歌や恋愛の話を朝までしたのを覚えている。
彼との出会いが、僕の価値観を変えた出来事の一つだったと今は思う。
卒業してから疎遠になってしまい、今は何をしているのだろうか…
大学ではテニスサークルに所属し、他大学との交流も多かった。
その為毎日のように飲み会に誘われ、1日5箇所に顔を出す日もあった。
そういった環境や人との出会いにより、コミュニケーション能力が養われた気がする。
就職してから初めて会う人の輪に入っても、友達作りに困った事はない。
それに、どうやら見た目や話し方が、初対面の人も話しやすいとの事だ。
コミュニケーションの達人は、”話し上手”よりも”聞き上手”になる事だ。
人間は誰でも話したい生き物。
話すことで自然とストレスが解消される。
だから聞き手側に回ることが、相手と仲良くなるコツだと本に書いてあった。
『マスター。マスターは会話で意識していることってありますか?』
マスター『僕は相手が”話しやすい”と感じてもらう事に意識しています。良いタイミングで相づちや質問をする。いわば”話させ上手”とでも言いましょうか。』
『”話させ上手”ですか。面白いですね。』
相手の話を聞いているだけでなく、話を引き出してあげる。
あの時の先輩もそうだった。
僕も先輩みたいに、人に影響を与えられる男になりたい。
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グラス一杯の物語【シーズン3】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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