Ep.24『偶然の一致』
(34歳、女性)
『こんばんは、1人です。』
私がマスターにそう伝えると、誰もいないカウンターに座った。
他にいるお客さんと言えば、
なんともスタイリッシュなマダムと、大御所音楽プロデューサーのような男性がスタンディングエリアで話しをしている。
私は一杯目のハイボールを飲み干し、おすすめの料理と赤ワインを注文した。
1人で来ているので沢山料理は注文出来ない。
それをマスターが察してくれたみたいで、数種類の料理を半分のボリュームで作ると言ってくれた。
相手の喜ぶ気配りが出来るサービスマンは素敵に見える。
私も普段は飲食に携わる仕事をしており、そういった些細な気配りを感じ取る事が出来る。
今の旦那さんとも職場結婚だ。
お客様やスタッフに気配りや心配りを絶やさない先輩に、優しさと安心感を感じた。
そんな彼に惹かれ、私は付き合うことにした。
結婚してからも、彼のスタンスは変わっていない。
私は関西の地元を離れて6年が経つ。
このバーは職場から帰宅途中にあり、ネットで検索したら女性1人でも入りやすそうだったので、初めて立ち寄った。
それから、今日はなんだか飲みたい気分だった。
職場の上司から頭ごなしに指示された内容に納得が行かなかった。
だけど私が首を縦に振るだけで、全てが丸く収まる。
そう考えると、なんだか行き場の無いストレスが込み上げていた。
とにかく、自分の気持ちを落ち着かせよう。
近くで大好きなプラネタリウムを見てから飲みに行くと、今夜は決めていたのだ。
ー僕ら3人は同じ血液型だからねー
先程のマダムと男性、マスターの会話が聞こえて来た。
もしかして…
私も同じだ!
『あの…私も同じ血液型です…』
店の中に4人しかいない。
こんな偶然があるだろうか。
私たち4人は笑いながら乾杯をした。
しばらく会話が弾んだ。
2人は元々1人で来ている常連客との事。
マダムはファッションに携わる仕事をしており、男性は大御所音楽プロデューサーではなかった。
ーこのお店に来たきっかけはなんだい?ー
そう男性が尋ねて来た。
『私、今日職場で嫌な事があったんです。』
『なので今夜は飲みに行こうと決めていて、検索したら、このお店が出てきたんです。』
マスター『では、今日職場で嫌な事が無ければ、僕たち4人は出会ってなかったね。』
素敵な言葉だった。
ネガティブをポジティブに変換する言い方。
ー私、またあなたとお会いしたいわー
マダムが私の手を取ってそう話した。
『私もまた、皆さんにお会いしたいです。』
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グラス一杯の物語【シーズン3】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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