Ep27.『良く知ることで』
(45歳、女性)
『こんにちは、元気してる?』
『これ、お土産。』
ーありがとうございますー
私はこのバーのファンになった一人。
初めて来た時に、とても忙しい中マスターが1人で切り盛りをしていた。
ちょうど夏の暑い日で、ビールを注文する人が多かった夜。
私はたまたま空いていたカウンターに座り、目の前のビールサーバーを眺めながら飲んでいた。
マスターはどんな忙しくても、どんなに同時にビールを作っても、完璧な泡の状態でお客の目の前に持っていった。
その所作に、私の心は掴まれてしまった。
とある飲食店で、忙しさのあまりビールの泡の状態にばらつきのあるお店を見た。
店側に事情があるとはいえ、私は二度とそのお店には行かない。
たかが安いビールだが、きれいなグラスにサーバーから注がれるきめ細かな泡の乗ったビールが飲みたい。
そんな飲食店を、私は開きたいと思っているからだ。
私は以前、アパレルに携わる仕事をしていた。
その頃から、飲食店を開きたいと思っていた。
人が好きだし、接客がしたいと思っていた。
現在アパレルの会社は別の人間に任せており、
旦那が経営している会社も現在は安定期で、私たちはやりたい事が出来る人生を送っている。
そんな中私は今、週3回調理場のアルバイトで修行をしている。
飲食店開業に向けての最初のステップだ。
この店はその職場が近い為、立ち寄ったのがきっかけ。
椅子があるカウンター席と、スタンディングエリアがある、一人でも入りやすい雰囲気だ。
前回来た時は旅行前だった。
私は毎年年末に、娘と母の3人でラスベガスに行くのが恒例行事になっている。
そこで豪快にカジノで遊ぶのが、私の楽しみの一つ。
もちろん予算の範囲内で。
そのことをマスターにも話していた。
『マスター。マスターは旅行とか行かないの?』
マスター『前回テキーラ勉強の為、メキシコに行ってきました。』
『それにしてもマスターは勉強熱心だよね。』
マスター『僕は探求心が強いのだと思います。良く知ることで好きになる。』
『良く知ることで好きになるか…』
『マスター。メキシコで飲むテキーラはどんな味だった?』
『私にも教えて。良く知りたいわ。』
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グラス一杯の物語【シーズン3】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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