Ep.15『こだわりのカシスソーダ』
こだわりのカシスソーダ(30歳、男性)
『マスター、いつもの下さい。』
キンキンに冷えた白ワインは、僕の一日のルーティンになっている。
このバーに通って8年。
知っている常連のお客さんも多く、お店の外でもBBQやパーティーなどで仲良くさせてるもらっている。
この店に来ると必ず誰かがいて、昼間の仕事は忘れ、美味しい食べ物の話や、最近ハマっている趣味などの話で盛り上がる。
年齢、性別、職業関係なく、昼間の肩書きは、入店の際に外に置いてくる。
そういった暗黙のルールがこのバーにはある。
そして皆、お酒を飲む事と喋る事が好きだ。
この2つの大きな共通点が、このバーに来続けている者たちの特徴だ。
そして僕は今、転職を考えている。
理由は低賃金、人間関係、仕事内容の全部だ。
全てが嫌になって来た。
きっと次に行く会社は今の会社よりも高待遇だろう。
今のところ一社が最終面接まで進んでいる。
早くこんな会社辞めてやるんだ。
『マスター。何かオススメ下さい。何か難しいカクテルがいいな。』
ーカシスソーダですー
『カ、カシスソーダ?なんでこんな簡単なカクテルなの?』
カシスソーダはカシスリキュールと炭酸水を混ぜ合わせただけの、超初心者向けのスタンダードカクテルだ。
マスター『カシスリキュールは炭酸水と混ざりにくい関係にあります。混ぜすぎると炭酸が消えてしまう。レモンを搾り入れ、丁寧に均一に混ぜる事が必要とされる、とても複雑なカクテルなんです。』
『そうなのか〜。』
『う、うまい。確実に今まで飲んだカシスソーダの中で一番うまい。』
均一に混ざった甘く爽やかなカシス色の液体が、レモンの酸味でしっかりと味が引き締まっている。
簡単そうに見えて、以外と複雑なんだな…
僕の今の仕事もそうかもしれないな。
一つ一つ見直してみたら、僕にしかできないことがまだあるかもしれない。
一つの仕事にこだわって、改善点がないか探してみる。
実績を身に付けて、会社から辞めないでくれと言われるまでやってやろう。
転職なんて、その後の話しだな。
『マスター、カシスソーダお代わり。』
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グラス一杯の物語【シーズン2】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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