Ep.17『最高の準備』
(40歳、男性)
『こんばんは』
俺がマスターにそう言うと、自動的にビールが出てくる。
俺はこのバーに通う常連客の一人。
仕事が終わり、馴染みのバーに何件か顔を出し、一息ついてから自宅へ帰るのが習慣だ。
実家では両親と家内、子供がいて、ありがたい事に円満に生活する事が出来ている。
俺が生まれた地域ではサッカーが盛んで、物心ついた時からサッカーをしていた。
恵まれた体格と両親の応援もあり、俺は日本代表ユースまで上り詰めた。
将来は日本のフル代表に選ばれる奴がゴロゴロいる環境。
俺もその一人だった。
ある時の試合、相手選手と交錯し、
俺は首に大怪我を負った。
怪我は完治して、何の障害もなく日常生活に戻ったが、
医者からは激しい運動は出来ないと告げられ、俺の選手生命は高校を卒業した春に断たれていた。
それから第一線は出来ないものの、自己管理しながら仲間達とサッカーを楽しんで来た。
今でもサッカーへの情熱は変わらず、地域の子供たちを指導している。
彼らが日本のサッカーを強くし、盛り上げてくれることに繋がっていると信じている。
日本のサッカーは世界に通用する。
その為には、海外に学ぶサッカー教育システムが必要となる。
この店の常連客には秘密だが、本業の傍ら俺はその一端を担っている。
それから、俺の選手人生に後悔はない。
そもそも、どんな有名なサッカー選手も、無傷な人などいない。
大きな怪我から復帰してる選手も多くいる。
きっと俺の準備が足りなかったんだ。
超一流は怪我をしない、万全の準備をしている。
だからこそ、そのステージに存在し続けられるのだ。
『マスターにとって、準備ってなんですか?』
マスター『最高のパフォーマンスをする為に、必要不可欠なものですね。』
そうか…
やはり準備が全てだ。
チーターはうさぎを追いかける時でも全力で追いかけ、足がつることはない。
それは、いつ何が起きても良いように準備をしているからだ。
競技や職業が違えど、重要なのは準備。
俺はどんな事にも全力で、準備して行きたい。
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グラス一杯の物語【シーズン2】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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