Ep.6『メキシコから』
メキシコから(35歳、男性)
『(良かった、まだ営業してる。)』
『こんばんは、いつものテキーラストレートで下さい。』
この店に来たきっかけは、ルームメイトの紹介だ。
1人でも入りやすいバーがあると言って、半年前に連れて来てもらった。
お店の雰囲気が気に入り、今やその友達よりも通っている。
そういえば高校に入学した時、
同じ中学出身の友達から、サッカー部に誘われたっけ。
帰宅部になるつもりだった俺は、少し遅れて入部した。
元々男子校で、地域では有名な不良高校。
中学時代からヤンチャだったあいつも、いつの間にかサッカー部から居なくなっていた。
そんなあいつも今や結婚して、地元を盛り上げてくれている。
一方、根が真面目な俺は、引退までサッカー部を続けた。
今でもサッカーは、プレーするのも観戦するのも大好きだ。
そのおかげで、サッカー好きな友達を作るのに事を書かない。
それはそうと、この店のテキーラの品揃えは気に入っている。
普通、バーのテキーラはカクテル用で2、3種類程度しか置いていない。
ましてや俺みたいに、脚付の専用グラスで飲む人などいない。
テキーラは本来ゆっくりと、香りも楽しめるありがたい酒だ。
本拠地のメキシコでは、お祝いの時に飲まれているようだ。
いわばシャンパンと同様な酒だと、
マスターが言っていた。
マスターは以前、テキーラを探求しにメキシコまで行ってきたらしい。
それもあって、このバーの品揃えは、テキーラ好きの心をくすぐる。
仕事が終わった後、ここでゆっくりテキーラを飲むのが日課になっている。
そして俺は今、独立の準備をしている。
アイデアとコツコツ貯めた開業資金だけは、準備出来ている。
しかし、開業に1番大事なのはタイミング。
これを見誤ると、どんな良いお店も閉店の道を辿る。
逆に言えば、タイミングさえ間違えなければ、内容が不十分でも上手くいってしまう。
『そういえば、マスターはなぜメキシコに行ったんですか?』
マスター『みなさんにテキーラ好きを証明したかったからです。メキシコツアーを探していたら、タイミング良くあったので、参加したんだよ。』
タイミングか…
タイミングって、待つものではくて、掴みに行く事で始まるものなのかもしれないな。
まずは行動だ。
明日物件を見に行ってみよう。
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グラス一杯の物語【シーズン1】
東京銀座にひっそりと構えるバー。来店されるお客様と、今宵最高の一杯をお出しするマスターのお話。ダサくてもホットな気持ちにさせてくれるエピソ…
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