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大人への階段

30代になるまで人は、濃厚味噌や魚介豚骨などのラーメンを好む。ボリュームがあって、脂がギトギトで、分厚いチャーシューのラーメンを好む。40代になると、あっさり醤油や塩にシフトしていく。50代になると、そばに全振りする。ランチタイムに50代以上のおじさんとおじいさんに占拠されている蕎麦屋を数限りなく見てきた私の考察である。

3人の息子たちは、やはり、若者らしく二郎が大好きで、二郎系と家系中心のラーメンライフを送っているらしい。類は友を呼ぶというが、長男には八王子に、次男はエスコンフィールドに、それぞれラーメン屋を開業した友人がいる。その影響を受けて、当然三男もラーメン好きなのだが、昨夜、突然
「鶏白湯、鶏白湯」
とチキンジョージ(14歳)に憑依されたかのように、騒ぎ出した。
「わかった。まず落ち着こう。明日、札幌の鶏白湯の店に行こう。」
19歳の三男は、まだ鶏白湯ラーメンを食べたことがなかったのだ。

初めての体験を積み重ねることが、大人の階段を登るということ。恋愛の経験値なんてまさにそれで、昔のヒット曲でもそんな歌詞があった。翼の折れたエンジェル。懐かしい。

Thirteen ふたりは出会い
Fourteen 幼い心かたむけて
あいつにあずけた Fifteen
Sixteen 初めてのKiss
Seventeen 初めての朝
少しずつ ため息おぼえた Eighteen

でも恋愛以上に、食の経験値を上げることも、オトナに直結する。歌詞にするとしたら、ちょっと強引で正確ではないが、こんな感じ。

Thirteen みょうがに出会い、
Fourteen ホルモン焼いて、蟹味噌
甲羅からすすった Fifteen
Sixteen 初めてのほや
Seventeen 初めてのくさや
少しずつ ニョクマムかけてた Eighteen

食の経験値を重ねて、味がわかるようになる。なかなか、新しいものに挑戦したがらない三男が、自ら飛び込もうとした鶏白湯。初体験で失敗させたくなかったので、札幌市白石区にある名店「菜々兵衛」に連れて行った。

安定の鶏白湯。まろやかで、臭みがないクリーミーなスープ。脂ギットギトの超濃厚な味に慣れると、物足りなさを感じるであろうその優しい味わいを、彼は受け入れるだろうか。化学の力で、いきなり強烈なインパクトの旨みを感じさせる白い粉マシマシに慣れた舌が、少しずつ滲み出てくる繊細な素材の旨みを感じ取ることはできるのだろうか。

その心配は徒労であった。
「美味いな鶏白湯」
スープを一滴も残さずに平らげ、彼は満足気だった。


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