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この映画を自分はどう受けとるか

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長く生きていると、鑑賞した映画作品も数千本レベルになってくると思うのだけど、内容なんてもう忘れてしまった名作も多いんです。最新作や話題作ももちろん観るけれど、改めて観たい昔の作品…
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さよならのつづき

良質なドラマをコンスタントに提供してくれているNetflix。今月は、2022年末の「First Love 初恋」に続く北海道ロケ作品「さよならのつづき」をリリース。恋愛ものを積極的には観ない私だが、道民としてはチェックしておくべきだろう、と考え、結果、全8話を一気見してしまった。あらすじは、予告編でも観て、雰囲気を掴んでいただければと思う。 コーヒー好きの地元民として、物語の設定が嬉しかった。この作品で描かれる風景やコーヒーに関するディティールが、観ていると嬉しくて、作品

ぼくが生きてる、ふたつの世界

耳がきこえない「ろう」の両親を持つ主人公。その産まれてからの半生が描かれた作品。原作者はこの物語の主人公本人。吉沢亮が演じる。 24時間テレビに代表される感動ポルノ。健常者が高いところから眺めつつ、寄り添ったフリして弱者を賞賛するという偽善。人を感動させることを目的にして、弱者を手段に使ってしまう無神経さに敏感な私にとって、この手の感動巨編はだいたい感動虚編に思えるため、なるべく避けているが、この作品のすこぶる良い評判を聞いて、観に行くことにした。 音のない世界、色のない

ミッシング

4年ほど前、お世話になっている取引先の社長の長男が、当時まだ大学生だったのだが、秋の海にさらわれて行方不明になった。今に至るまで、まだ発見されていない。行方不明のまま。社長も夫人も、何年経とうが、区切りはつけていない。つまり、死んだことにして葬式をあげることができていない。どこかで生きていて、ある日、ひょっこり「ただいま」と帰宅するだろう、と本気で思っているフシがある。 ワンピースのチョッパー編に登場するヒルルクの言葉 「人はいつ死ぬと思う? …人に忘れられた時さ」 はあま

極悪女王

この物語の主人公はゆりやんにしかできない。全5話を観終わった後で、そう思った。松本香(ダンプ松本の本名)と80年代全日本女子プロレスの物語は、吉田有里(ゆりやんレトリィバーの本名)と女芸人の生きる世界の物語とオーバーラップする。松本香の幼年期のような悲惨さが、ゆりやんにあったかどうかはわからないが、現実世界とショーアップされた虚構の世界の境界を彷徨い、その激しいギャップを生き続けることを求められる、一般人には想像だにできない壮絶な人生を歩いている点で、松本香とダンプ松本を理解

パーフェクトデイズ

昨年末から年初にかけて、映画好きの範疇を超えて広く話題になったこの映画を今さら語るのは憚られる。でも「好きな映画は何?」と映画好きな人に訊かれると、50%以上の確率で「ベルリン天使の詩」と答えて来た私にとって、ヴィム・ベンダース監督の作品は特別なのだ。ヴェンダースの「都会のアリス」「パリ・テキサス」そして「ベルリン」はどれも印象的で、その中でも特に小津安二郎の影響を強く受けていると勝手に私が思っている「ベルリン」は、学生時代、レンタルビデオをダビングしたVHSテープが擦り切れ

ストップ メイキング センス

今年の2月、東京で病み、休職させてもらったおかげで時間を持て余していた私は、何度も池袋の映画館に足を運んだ。この期間に観た作品は、いちいち自分の心に刺さったのだが、この作品は逆に刺さった棘を抜いてくれて空っぽにしてくれたように感じ、ありがたかった。40年前のライブ映像を4K仕様にレストアした作品だが、IMAXの迫力画面と迫力音響、そしてこのバンドのメンバー、特にフロントマンのデビッド・バーンと、ベースのティナ・ウェイマスのカッコよさに痺れた。 1983年のライブ。当時13歳

はじめに。私にとっての良い映画

今の世の中は、公開された映画の多くがデジタルアーカイブされている上に、人気タイトルともなれば1,000以上にも及ぶ大量のレビューを読むこともできる。そのレビューはもちろん玉石混交で、参考になるもの参考にならないものの判断もまたその「参考になる」の数で可能となる。映画に限らず、すべてのデジタルコンテンツはこの評価システムで評価されてしまう。つまり「多数決」で良し悪しが決まってしまう、かのように思えてしまうのだ。 この多数決評価方式では、日本人がバカであったと仮定すれば、当然、