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#6 続・クリア報酬のないクエスト

夫と義母は、元々、そりが合わない。
義母に逢う前から、夫からの義母の評価はとかく低く、曰く、
『田舎でずっと生まれ育って、外を知らない、物を知らない。
 (自分の価値基準だけで決めつけるため)物事の道理が通じない』
逢う前からこんなことを言っていたので、実際に義母にお会いした時は、
『ああ、確かにこれは、絵にかいたのような田舎のおばちゃんだな』と思ったものだったけれど、それだけではない。

気質が同じなのだ。親子なのだから当たり前なのだけれど、夫と義母は気質が同じで、ただ、夫はさすがに職業柄もあって「外」がどういうものかというある種の道理はまだ通じるが、義母は本当に、狭いコミュニティで育って生きてきた方なだけに、なかなか、道理を説くのが難しい。
夫としては義母の在り方が矮小で世間ズレしていることを、義母が理解しようとしない、改めようとしないところが、どうやっても理解出来ないようなのだ。夫も義母の在り方を理解しようとしない。お互いに「自分が正しい」と思う感情を隠さない。気質が同じである。なので、母子であることも相俟って、容赦なく衝突する。

先日こんなことがあった。
私はすでに出勤していて家に居らず、夫はまだ出勤前で義母と二人。
義母が「妙に熱っぽい」と訴え、体温計を所望したらしい。ところが我が家には、「我が家の体温計」というものがない。夫は体温計などを所持する人ではなく、また私は諸事情により、使用している体温計を「持ち歩いて」いるのだが、夫もそして義母も、体温計があることは知っていたため、義母の訴えもあり、珍しく仕事中なのを知っていて、夫から私へ連絡が入った。

体温計どこにあったっけ。

私はすぐに、「ごめん、体温計は私が持ち歩いている」と告げ、結果、夫が近所のドラッグストアまで新しい体温計を買いに行ったのだが、そこがまた新たなる衝突の火種となる。
夫からは、義母専用に、口腔内で計測する体温計を買って与えたと伝えられていた。その後、とりあえず体温を測ってはみたものの微熱以下36.9℃だったようで、発熱というほどではなく、義母も想定外な感じだったようだが、問題はそこではなく、夫からの報告によると、義母がまた「ブツクサ」と文句を放ったようだった。

『口で測る? 音がせん(しない) (ちゃんと)測れとるとや?』

夫はカチンっときたようだった。口で測る体温計ではあるが、おそらく口腔内で測るタイプなので、音が脇下タイプより小さめなのが災いもして、
「音は鳴ってるが(耳が遠くて)音がわからないのは自分のせい」なのに体温計のせいにしていると夫は思い、さらに、わざわざ体温計を買いに行ったのに、その買いに行くときですら、待てないから早く買いに行けという趣旨の言葉を夫に投げつけていたらしく、そこで一度ムカついていたのが、買ってきたのにその言い草である。
ちなみに、義母の価値基準での体温計とは、脇下で測り、音がピピっと響くモノ。因って、義母からすると自分が所望した体温計ではない体温計を息子が「良く聞きもせず、調べもしないで買ってきたシロモノ」となっていたので、義母は義母で不満に思っていた。
衝突勃発。
その日、帰宅後、私が義母に体調を訪ねると、熱はないがやけに怠いと訴え、そして私に向かって、
『あなたの体温計ば貸してやらんね。あの子(夫)が買ってきたのは、口で測るやつで、気色ん悪かけん』
と私が持ち歩いていた、所謂脇下計測の体温計を所望してきたので、私はもちろん貸し渡したのだけれど、その間も、息子が(自分が知っているものとは)違う体温計を買ってきたことについて不満に思う事を赤裸々に言葉にして私に言うので、私はちょっとゲンナリしてしまった。

夫からは、わざわざ買ってきてやったのに、文句ばかりで、しかも体温計代も払わない。(お金が惜しいという趣旨ではない。要するに感謝の気持ちがないというのだ)
義母からは、自分が欲していた物とは違う物を買ってきたが、文句も言わずに大人しくそれを受け入れてやっている。(自分の為に買ってきたものであるとは思っていない)

全く。
気質が同じなので、もうちょっとだけ、お互いに歩み寄るという作業をしていれば、こんな衝突はしないのだけれど、こうやってこの親子は、それこそ何十年と接してきているので、それこそ無理ゲーなのだが、相容れない様相は傍で見ていて、なんなら巻き込まれがちになる私からすれば、どちらもどちらなのだが、それを私が言うことは出来ない。

夫には、義母はあの感覚で80年近くを生きてきたので、しょうがないと言い続ける。
義母には、曖昧な返答と一定の距離を保って、同意しない。

というクエストが、私の身に新たに追加されている。

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