「DX認定」を取得するまでにやったこと
株式会社あつまるの渡邊です。
「DX認定」と呼ばれる制度をご存知でしょうか?
経済産業省が中心になって、日本企業のDXを推進する目的でつくった制度の一つです。
認定されると、税制優遇を受けられたり、低利で融資を受けられたりと、いろいろメリットがあります。
また、東証の上場企業にとっては、「DX銘柄」(旧「攻めのIT銘柄」)の認定要件にもなります。
僕が勤める株式会社あつまるは、2021年9月に「DX認定事業者」として認定を受けました。
DX推進ポータルに「株式会社あつまる」の名前が掲載されているので、よかったらご覧ください(2021年9月度の一番上に載っています)。
それもあって、最近「この前取得してた、DX認定って何?」「DX認定を取得するにはどうしたらいいの?」と聞かれることが増えました。
また、「DX認定」取得の準備を進める他の企業の担当者から「準備めっちゃしんどいんだけど、良い方法ないの?」と相談されることもありました。
そこで今回、DX認定の概要や、弊社がDX認定を取得するまでにやったことをお伝えしようと思います。
僕のこのnote記事でわかることは以下の点です。
1. 「DX認定」ってそもそも何?
ざっくり言うと、「DXに向けて良い取り組みをしている企業を、国が認定する制度」です。
国の法律に基づいて認定されており、企業に付与される一種の国家資格みたいなものと考えていただければ良いかと思います。
具体的には、「情報処理の促進に関する法律」の第31条に基づいて経済産業大臣から認定されます。
正直、細かい法律の中身を理解する必要はありません。
「DXに向けて良い取り組みをしている企業を、経済産業大臣が認定している」くらいの理解で十分です。
一応、引用しておきます。
(基準に適合する事業者の認定)
第三十一条 経済産業大臣は、事業者からの申請に基づき、経済産業省令で定めるところにより、当該事業者について、前条第二項各号に掲げる事項に関する取組の実施の状況が優良なものであることその他の経済産業省令で定める基準に適合するものであることの認定を行うことができる。
ちなみに、「前条第二項各号」はこちら。
(情報処理システムの運用及び管理に関する指針)
第三十条 経済産業大臣は、情報処理システムを良好な状態に維持し、企業経営において戦略的に利用することが重要であることに鑑み、情報処理システムを良好な状態に維持するために必要な情報処理システムの運用及び管理(以下この章及び第五十一条第一項第九号において単に「情報処理システムの運用及び管理」という。)に関する指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
2 指針には、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 情報処理システムの運用及び管理に関する基本的事項
二 情報処理システムの運用及び管理を適切に行うために必要な体制の整備に関する事項
三 情報処理システムの運用及び管理に係る具体的な方法に関する事項
四 その他情報処理システムの運用及び管理を適切に行うために必要な事項
3 経済産業大臣は、指針を定めるに当たつては、我が国産業における情報処理システムの利用の状況及び情報処理技術の動向を勘案するものとする。
4 経済産業大臣は、指針を定めようとするときは、総務大臣その他の関係行政機関の長に協議しなければならない。
5 経済産業大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
6 経済産業大臣は、おおむね二年ごとに指針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。
7 第三項から第五項までの規定は、前項の規定による指針の変更について準用する。
認定にあたっては、独立行政法人情報処理推進機構(以下、IPA)が、「DX認定制度事務局」として各種相談・問合せ、及び認定審査事務を行っています。
全体像としては、下記のイメージです。
2. 制度が生まれた背景は?
一番大きいのは「DXしないとヤバイ(汗)」という危機感です。
その危機感には2つの背景があります。
1つ目は、日本の現状という内在的背景です。
2018年9月に経済産業省が公開した通称「DXレポート」に、下記の記載があります。
多くの経営者が、将来の成長、競争力強化のために、新たなデジタル技術を活用して新たなビジネス・モデルを創出・柔軟に改変するデジタル・トランスフォーメーション(=DX)の必要性について理解しているが・・・
(略)
この課題を克服できない場合、DXが実現できないのみでなく、2025年以降、最大12兆円/年(現在の約3倍)の経済損失が生じる可能性(2025年の崖)
国家予算がだいたい100兆円(2020年が106兆円)なので、国家予算の約10%分が損失として生じる可能性があるそうです。
世界的に競争力が低下している日本が、これ以上無意味な損失を出していては、成長はありません。
そもそも損失を生み出さないように、日本企業にDXしてほしいという想いが国としてあるようです。
※実はこの「DXレポート」には一つ誤解を招く要素があり、2020年12月に公表された「DXレポート2 中間取りまとめ」にその反省が盛り込まれているのですが、今回のテーマから外れるので割愛します。
もう1つは、GAFAをはじめとする、グローバル企業の進出という外在的背景です。
例えば、Amazonはもはやかつてのオンライン書店ではなく、世界最大の小売・流通企業となり、今ではPB(プライベートブランド)も売り出すなどメーカー的側面も持っています。
Facebookも、SNSだけに留まらず、ブロックチェーンなどを活用して金融商材を扱っています。
中国も、BATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)をはじめとして、多くの企業が成長し各国に進出しています。
もはや日本の生活、海外のグローバル企業なしには成り立たなくなりつつあります。
iPhoneを触り、Youtubeで動画を観て、Instagramで流行りをチェックし、Uber Eatsで食事を頼み、Amazonで買い物をする。
日本企業も、旧態依然としていては、グローバル企業の波に飲み込まれます。
DXとはデジタルを通じて「変革」することであり、変革を通じて競争力を上げていく必要があります。
これら内的・外的要素から、「このままではマズイ・・・」という想いがあり、DX認定という制度が生まれたと僕は考えます。
3. どんなメリットがあるの?
「DXした方がいい」という想いは皆さんの頭の中に漠然とあると思いますが、具体的なメリットがないと、なかなか動けないと思います。
DX認定を取得するメリットは4つあります。
メリット① 申請を通じて、企業の現状を認識し、DX戦略を策定する契機となる
メリット② 国からの認定ということで、信頼性が向上する
メリット③ 税制優遇や低利融資などを受けることができる
メリット④ (東証上場企業のみ)「DX銘柄」の応募要件となる
今回は、メリット③について簡単に説明します。
まず、税制優遇に関して。
2022年4月に税制改正が予定されています。
に、その内容が説明されているのですが、法人課税の1番目に「デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制の創設」があります。
概要をお伝えすると、クラウドなどを活用するDX投資に対して、3%・5%の税額控除、または30%の特別償却が受けられるというものです。
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制と併せて、当期の法人税額の最大20%まで控除が可能です。
細かい要件等については税理士に相談されるのが良いと思います。
もう一つ。低利融資に関して。
例えば、日本政策金融公庫の「IT活用促進資金」では、DX認定事業者は2億7千万円まで特別利率0.46%〜0.65%で借りることができます。
特に中小企業にとっては、結構破格の金利ですね。
経済産業省の担当者の方に聞いたところ、「DX認定」の取得が進み、企業による税制優遇や低利融資の需要が大きくあるようなら、予算を出して他にも拡充するとのことでした。
これらのように、DX認定を取得するメリットはいくつもあります。
4. 申請フローは?
「DX認定」の概念を掴んだところで、具体的なフローについて述べていきます。
申請までのステップは、大きく分けて10つあります。
①gbizアカウントを作成する
②Excel「DX推進指標自己診断」を提出する
③DXの方針、戦略などを策定する
④取締役会にて、DX方針・戦略の承認を得る
⑤DX方針・戦略を外部に公表する
⑥経営者自らDXに関する情報発信を行う
⑦Excel「チェックシート」を入力する
⑧Word「申請書」を入力する
⑨補足資料を用意する
⑩申請する
申請に必要な書類については、下記ページからダウンロードできます。
Excel「DX推進指標自己診断」ダウンロードページ
Excel「チェックシート」&Word「申請書」ダウンロードページ
①gbizアカウントを作成する
gbizアカウントとは、行政サービスを受ける際に、共通して利用できるログインIDのことです。
一度発行すれば、様々な行政サービスで使うことができます。
下記URLから取得することができます。
gBizIDには「gBizIDプライム」と「gBizIDエントリー」の2種類があります。
DX認定においてはどちらでもOKのようです。
弊社の場合、「gBizIDエントリー」でOKでした。
「gBizIDプライム」は書類等が必要で、アカウントとしては正式(?)なもののようですが、取得まで1週間以上かかるそうです。
お手軽に取得したいなら「gBizIDエントリー」で十分で、即時発行できます。
②Excel「DX推進指標自己診断」を提出する
ダウンロードしたExcel「DX推進指標自己診断フォーマット」について、設問に従って入力します。
これが700行近くあるので、結構大変です。
入力が終わったら、提出です。
まず、①で取得したgBizIDで
にログインします。
ホームの左側に緑色の「DX推進指標」という枠がありその中の「DX推進指標の手続き」をクリックします。
次に、左側の「自己診断結果提出」の枠内にある「診断結果を提出する」をクリックします。
あとは、入力したExcel「DX推進指標自己診断」を添付して送信すればOKです。
自己診断に関しては、あくまで「自己診断」なので、その診断結果自体は認定において大きな影響はないと予想されます。
重要なのは、後述する「チェックシート」と「申請書」です。
この自己診断に関しては、提出結果を「チェックシート」に記載する必要があります。
③DXの方針、戦略などを策定する
自己診断を通じて、自社のDXの現状をおおよそ知ることができます。
次に、その現状を踏まえて、今後自社がDXについてどういう方針を立てて、戦略を掲げ、実行していくかを定めます。
ここで重要なのは、オリジナルで考えるのではなく、申請ガイダンスやExcel「チェックシート」の項目に従ってそのままつくることです。
例えば、
(1)企業経営の方向性及び情報処理技術の活用の方向性の決定
1-1 デジタル技術が社会や自社の競争環境にどのような影響を及ぼすかについて認識し、その内容について公表しているか。
1-2 1-1を踏まえ、経営ビジョンを策定・公表しているか。
1-3 経営ビジョンを実現するためのビジネスモデルの方向性を示し、公表しているか
とあるので、その回答を作成していきます。
結局、申請においてはフォーマットに沿って入力しないといけないので、最初からフォーマット通りに策定することが効率的です。
一つ一つの項目についてもそれぞれポイントがあるのですが、そちらはnoteで書くには細かすぎるので、興味がある方はご相談ください。
④取締役会にて、DX方針・戦略の承認を得る
③で策定した方針・戦略を、取締役会で承認を得ます。
DX認定において、取締役会の承認は必須要件です。
なぜかというと、DXは経営陣が本気で取り組まない限り失敗するものだからです。
経営陣が本気でDXと向き合い、自ら先頭に立って進めて初めてDXは前進します。
「DXに本気で取り組もうとしない企業は認定しないよ」という経済産業省の意図です。
聞いた話では、本当に取締役会で承認された内容かどうかを確かめるために、申請時に議事録などの提出を求められる場合があるそうです。
⑤DX方針・戦略を外部に公表する
取締役会で承認を得たら、その内容を外部に公表します。
公表手法に指定はありませんが、ホームページが一般的かつお手軽でしょう。
ホームページに、DXに関するページをつくって公開します。
公表する必要がある内容は、Excel「チェックシート」に「公表しているか」という設問がある項目です。
参考までに、弊社の公表ページのリンクを掲載しておきますので、ご参考までにご覧ください。
⑥経営者自らDXに関する情報発信を行う
Excel「チェックシート」の(4)の設問に、「4-1 戦略の推進状況等に関する情報発信を、経営者自ら行っているか。」というものがあります。
これに「はい」と答えて、具体的な内容を記載するために、経営者自らDXに関する情報発信をする必要があります。
③と同様、経営者のコミットを求めているわけです。
最もお手軽なのはやはりホームページですが、紙媒体で発信しているケースも多いようです。
例えば、外部からのインタビューや、社内の広報誌です。
弊社の場合は、ステークホルダーに配っている社内報に、代表のDXに関するメッセージを掲載しました。
ホームページの場合はURLを「申請書」に記載すればOKですが、紙媒体の場合はPDFなどのデータを補足資料として一緒に提出する必要があります。
⑦Excel「チェックシート」を入力する
あとは、書類のフォーマットに従って入力していくだけです。
まずはEXcelの「チェックシート」です。
法人番号については、下記URLから調べることができます。
⑧Word「申請書」を入力する
「チェックシート」の入力が完了したら、「申請書」の入力です。
内容としては、「チェックシート」の要約です。
⑨補足資料を用意する
「チェックシート」「申請書」の入力が済んだら、必要に応じて補足資料を準備します。
例えば、先述した、紙媒体での経営者による情報発信に係るPDFなどです。
他にも、「チェックシート」の設問(6)で、セキュリティ監査等を行っていることの説明文書の提出が求められているので、必要ならその資料も用意します。
⑩申請する
必要書類が揃ったら、最後に申請です。
DX推進ポータルの真ん中にある「DX認定制度」の枠内にある、「申請・届出を行う」をクリックします。
最初は、Wordの「申請書」を添付します。
このとき、PDFなどにせず、Wordのまま添付してください。
添付できたら、「申請書をアップロードして申請をはじめる」をクリックします。
ページが移ったら、あとは「チェックシート」と補足資料を添付して、申請すれば完了です。
このとき、「チェックシート」もPDFではなくExcelのまま添付してください。
つまづきポイント(弊社事例)
ここまで、申請の大枠のフローを書いてきました。
この章では、実際に弊社がぶつかった(=落とされた)ポイントをシェアします。
皆さんは、同じ轍を踏まないようにお気をつけください。
【NG】Excel「チェックシート」を開くときに、アラート的なものが出る
Excelは特定の条件を満たすと、開くときにアラート的なものが表示されるようになります。
例えば、このようなものです。
これがダメとのことで、「表示されないように、出し直してください」と言われました。
【NG】「チェックシート」と公表されているサイトの内容が連動していない
「チェックシート」の記載内容と、⑤の公表内容に齟齬や項目のズレなどがあると、NGです。
申請前に、「申請書」「チェックシート」「公表内容」の3つが適切に連動していることを確認しましょう。
【NG】フォーマット崩れ
「申請書」や「チェックシート」のフォーマットを崩すのもNGです。
例えば、僕は「申請書」の冒頭にある「ふりがな」という部分を消してしまっていました。
そしたら「フォーマットから『ふりがな』の文言が消えています。フォーマット通りに提出してください」とありました。
【NG】サイバーセキュリティ対策が「Pマーク」だけ
Pマークは、個人情報を守ることにおいては有用ですが、サイバーセキュリティという観点からは部分的です。
「Pマーク取得しています」と申請したら、「他にはしていないのですか?」と突っ込まれました。
「個人情報保護だけ」ではなく「サイバーセキュリティ全般」に関する取り組みについて記載する必要があります。
さいごに
DX認定の概要や申請フロー、つまづきポイントについて記載してきました。
ここまで読めば、DX認定取得の第一歩は踏めるのではないでしょうか。
DX認定に興味がある方にとって、少しでも参考になれば幸いです。