『メルカリ』という映画の中で、ネオのように目覚めて、タイラーのように生きている。episode 17
●ゆれる
2018年夏、
46歳になった
僕の心は揺れていた。
これまでの人生で、間違いなく一番悩んでいた。
つなひろワールドを通じて、
パラ・アスリートとして迎え入れてくれる
再就職先を探していた。
柔術とパラテコンドーが思いっ切り出来る環境を探していた。
しかし同時に、
様々な不安も抱えていた。
バーコード頭とカッパ頭の嫌がらせで、
決して快適な職場とは言えなかったが、
毎月安定した給料を貰えていたことも事実。
日中は自分を殺して、
いまの環境で出来る範囲で、
柔術もパラテコンドーも頑張ればいいのではないか⁉︎
パラ・アスリートとして再就職して、
もしも
大きな怪我をしたらどうなるのか?
東京パラリンピックが終わった後、
僕の存在はどうなるのか?
46歳にして
アスリート就職???
何よりもまず、そこから頭がおかしいのではないか?
僕の心は、タイタニック号よりも揺れていた。
●マトリックス
『これはオレの映画だ!』
きっと世界中の、
何億もの人が、そう思ったことだろう。
2000年に公開された映画『マトリックス』は、
僕の人生に大きな影響を与えた。
『人間は、マトリックスという"機械"の栄養分であり、
生まれた時から機械に繋がれ、
眠ったまま、
その一生を終える。
マトリックスは人間の脳に、
"仮想現実"のプログラムを送ることで、
人間は、眠りの中で見る夢のように、
疑うこともなく、穏やかに、
仮想現実の中の一生を過ごす。』
人とコミュニケーションを取ることが苦手で、
日常に違和感がある自分は、
多分きっと
マトリックスが送る仮想現実プログラムの中を生きている。
僕は眠り続けている・・・
だからネオのように目覚めて、
ここから逃げ出さなければならない・・・
しかしその反面、
仲間を裏切り、仲間の居場所を教える代わりに、
エージェントスミスに、
『マトリックスに戻してほしい。仮想現実プログラムの中で、有名人にしてくれ』
と希望するサイファーの気持ちも
よく分かる。
現実の世界で、
辛い思いをして、空腹を抱えて、
巨大なマトリックスと対峙することに
何の意味があるのか??
仮想現実プログラムの中で
一生を過ごして、
何が悪いのか?
何の問題があると言うのか??
大体そんな
神のような存在に、
勝つことなんて出来るのか??
自分自身の中にある、
"小さな違和感"
に、拘る必要があるのか??
きっと世界中の、
何億何千もの人が、そう思ったことだろう。
『わたしは、
青いカプセルを飲んで生きているのか?
それとも
赤いカプセルを飲んで生きているのか?』
●キアヌ・リーブス
このまま今の職場に残るか?
パラアスリートとして転職するか?
迷いながらも
僕はアスリート雇用先を探していた。
そしていくつか
拾ってもらえそうな企業も見つかっていた。
ただ、ずっと雇ってもらえるという保証はもちろんない。
もしも最悪の結果になったとしても、
自分だけが惨めな思いをするならいい。
やはり気になったのは家族のことだ。
当時はまだ子供は居らず、
妻と二人暮らしだったが、
妻を不安な気持ちにさせたくない、
それが僕の本音だった。
キアヌ・リーブスが、
マトリックスで
キャリー=アン・モスを守ったように、
『スピード』、『イルマーレ』で、
サンドラ・ブロックを守ったように、
強い存在になりたかった。
(続く)