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『メルカリ』という映画の中で、ネオのように目覚めて、タイラーのように生きている。episode 15
●トム・クルーズ
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1986年に
『トップガン』と『ハスラー2』を
観て、
トム・クルーズが大好きになった。
それまで、
ジャッキー・チェンとか、
シルベスタ・スタローンとか、
"肉体的な強さ"に憧れたムービースターはたくさんいたが、
『映画俳優としての格好良さ』
『人間としての格好良さ』
に憧れたのは、
トム・クルーズが最初かもしれない。
もちろん
僕がどう転んでも
トム・クルーズのようにはなれないが、
人間誰しも、
『あんな男(女)になりたい』
という憧れがあると思う。
何かに迷った時、
新たな行動を起こす時、
客観的に自分を見ることが出来る人間でいたい。
『自分は、自分自身がなりたい"憧れ"に、
反するような行動をしていないか⁉︎』
いつも判断出来る人間でありたい。
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●夢の"ストーカー"タッグ
熊本への往復四時間のドライブは、
確かに楽ではなかった。
しかしこの頃の僕は、
それ以上に
大きな問題を抱えていた。
なんと僕は、
職場で
50代のバーコード頭に、"ストーキング"されていた。
具体的な内容は、
・僕が席を立ってトイレに行くと着いてくる。着いてくるが無言。例えば僕が、トイレで軽くストレッチをしていると、上司に
『重水はサボって運動していた』
と報告する。
・僕は月に数回、倉庫で作業していたのだが、僕が席を立った瞬間から時間を測っていて、
『重水は◯◯分間倉庫から帰って来なかった。長いのではないか?サボっているのではないか?』
と上司に報告する。
・僕は、僕ひとりで担当している仕事も多くて、
用語等分からない時に、教えてもらえる人がいなかったので、自分のスマホで意味を検索して、作業を進めることも多かった。その度に
『重水は仕事中にスマホで遊んでいた』
と上司に報告する。
etc・・・・・
想像してほしい、
スカーレット・ヨハンソンのような美女スパイに
四六時中見られていたら、
正直ちょっとドキドキワクワクする。
しかし僕は、
50代バーコード頭、
若い頃アマチュア・ボクシングで鹿児島市大会で優勝した時の
タテヨコ2平方cmぐらいの
地方紙の新聞記事が宝物の油っぽいオッサンに、
四六時中見られているのである。
いま、思い出しながら文章を書いていたら、
マジでやや気分悪くなってきた(苦笑)
さらに
なんとこのストーカーは"増殖"した。
バーコード頭ボクサーの隣に、
身長180cm、体重90kgぐらいの
『カッパ頭』デブが座っていたのだが、
バーコード頭ボクサー
と
カッパ頭デブ
が
交代で僕を監視して、
交代で上司に報告していた。
この
バーコードとカッパは、
僕が入社した当初、
食堂で僕と二人になる度に、
お互いの悪口、揚げ足取り話を無限に話していて、
僕が相槌ちを打たずに、
『あまりお話したことがないので、よく分かりません』
と答えると、
二人とも不満そうな顔をしていた。
この犬猿の仲だった
バーコードとカッパに、
"共通の目障りな奴"が現れた
ということで、
"夢のタッグチーム"を組ませたのだから、
僕もなかなか大したものだ(笑)
僕は入社当初、
バーコードにもカッパにも
『君は障害者なのに、頑張ってるねぇ〜』
と、富士山よりも高い場所から声を掛けられていた。
しかし
僕が少し注目され出すと、
接する態度が変わってきた。
『ダセェな・・・
自分で自分のこと、格好悪いと思わないのかな・・・』
多分
彼等の心の中に、
トム・クルーズはいない。
●救急車
バーコード・ボクサー&巨漢カッパ、
夢のタッグチームが
毎日毎日報告に来て、
何かおかしいと考えない上司も上司だが、
毎日のように
上司に会議室に呼び出されて、
『この話は本当か⁉︎』
と問いただされて、
無駄な時間を過ごすことに
結構なストレス、イラ立ちを感じていた。
タダでさえ短い睡眠時間、
しかしストレスのため、
身体は疲れていても、イラついて熟睡出来ない日々が続いた。
そしてある日、
僕は朝から胃の辺りに
針でチクチク刺すような痛みを感じていた。
針で刺すような痛みだったものが、
段々とナイフで触れられるような痛みに変わってきて、
ついには我慢出来なくなって、
僕はお腹を押さえて
その場にうずくまった。
初めて職場から
救急車で病院へ運ばれた。
(続く)