『メルカリ』という映画の中で、ネオのように目覚めて、タイラーのように生きている。episode 13
●足のボクシング
それは僕が柔術に出逢う、ずっとずっと昔のお話。
『"足のボクシング"と呼ばれる格闘技が、オリンピック種目になるらしい・・・』
小学6年生か、中学1年生ぐらいだったと思う。
プロレスラー、格闘家に憧れていた僕は、
大人に近づいていくにつれて、
左腕に障害があることが、
強くなるために"不利"であるという現実に気付き始めていた。
『足のボクシングだって⁉︎足で闘うなら、自分にも出来るのではないか⁉︎』
"足のボクシング"と呼ばれる格闘技、
『テコンドー』
格闘技通信という雑誌で特集されていた。
それが僕とテコンドーの初めての遭遇、
未知との遭遇
だった。
YouTubeどころか、インターネットも無い時代。
テコンドーの映像を目にすることは
ほとんど出来なかった。
本当にタマに、
TVのスポーツニュース等で、
オリンピック新種目として、数分間映像が流れる程度。
目にすることが出来ない分、
想像力が掻き立てられ、
憧れは更に強くなっていった。
『テコンドーを習ってみたい』
しかし
鹿児島の片田舎に、テコンドーの道場があるわけもなく、
"足のボクシング"への憧れは、
いつしか"夢の化石"となっていった。
●化石
『腕に障害がある人のためのテコンドー=パラテコンドー』
『2020東京大会から、パラテコンドーがパラリンピックの正式種目へ』
その存在、そのニュースは、
雑誌か何かで知ってはいた。
それを知った時、
化石になっていた
少年時代の憧れの記憶が一瞬だけ甦った。
だが、
日本の中心部から遠く離れた鹿児島に住み、
年齢は40代、
安月給のサラリーマン、
そして
2015年に結婚、
人生を変えてくれた柔術は
死ぬまで続けるつもり。
流石に
いまからテコンドーを始めるのは無理だろう。
発掘されかけた夢の化石を、
僕はもう一度
センターオブジアースの世界よりも深い
地中へ沈めていた。
●縁
『重さん、パラテコンドーやりませんか?
パラテコンドーで、東京パラリンピック目指しませんか??』
堀江 航さんのお誘いの言葉がなければ、
僕の夢の化石は、
インディジョーンズでも発掘することが出来ないくらい、
地中奥深くに沈んでいったことだろう。
『縁』があるモノは、
遠避けても、捨てようと手放しても、
誰かに奪われたとしても、
ベルセルクのベヘリットのように、
いずれ自分の元に戻ってくる。
『これは神様が、
"テコンドーやれ"って、言っているのか・・・』
●熊本
どうやら
"柔術の神様"
と
"テコンドーの神様"
は、
マイティ・ソーと
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
のように仲が良いらしい。
テコンドーの神様が手招きしてる。
やるしかない。
もう他に道はない。
パラテコンドーに挑戦しよう。
挑戦することは決めた。
挑戦することは決めたが、
鹿児島にテコンドーの道場は無い。
どうしようか?
いろいろ試行錯誤していると、
航さんが、
日本人唯一の
テコンドー・オリンピック銅メダリスト
岡本依子さんを紹介してくれた。
そして岡本さんが、
鹿児島から一番近いテコンドーの道場、
熊本県熊本市の道場を紹介してくれた。
鹿児島から一番近いと言っても、
車で、高速道路を使って片道2時間、
往復4時間。
2018年7月
車を走らせ、
初めて熊本のテコンドー道場へ向かった日は、
嵐のような大雨だった。
(続く)