[こぼれ話9]下村純一さんの仕事を間近で見て考える「写真家とは」
「藤森照信の現代建築考」の写真は、すべて建築写真家・下村純一さんの撮り下ろしです。
X(旧Twitter)とかでお名前を検索してみると、下村さんの写真ファンもチラホラ見かけます。
写真家・下村さんの起用は、藤森先生のご指名でした。
先生に聞いたわけではないですが、藤森先生が一緒にお仕事をする建築写真家は3人いるとのウワサ。
その1人が下村さん、ということだそうです。
隣でおしゃべりをしながら撮影のアテンドをしていると、下村さんの建築の知識の豊富さに驚きます。
取材スケジュールの調整を進める中でわかり始めたのは、下村さんはどこかで授業を持っているらしい、ということ。
早稲田大学?早稲田の専門学校?で写真の講座を担当している他に、武蔵野美術大学で建築史か建築デザインの授業も担当されているという。
もう当時の話ですが、写真家が建築の授業を持っている??ということにすごく驚きました。
(Twitterでは逆に「下村先生って建築史の先生じゃなくて建築写真家だったんだ」というコメントがありました)
検索したら建築関係の著書もたくさん!
藤森先生の取材では、藤森先生の建築取材のスピードと、下村さんの撮影のスピードに大きな差があります。
最初に下村さんが藤森先生にどこ撮るか、と伺って、大枠でご指示をいただいていました。
もちろんそれだけでは、これから建築の中を巡っていく先生の原稿の趣旨を賄えるかわからないので、下村さんが撮影してる間に、私が藤森先生の横に付いて行って、新しい撮影ポイントを聞いていきます。
そうしているうちに、藤森先生は思索の時間に入ります。
そうなったら、私は下村さんのところに戻り、新しい撮影ポイントを伝えて、撮影のアテンドを始めます。
しかし、撮影ポイントを伝えるだけでは、藤森先生が考えている撮影の意図が明確ではありません。
画角も構図も曖昧です。
「こういうことかな?」と下村さんは私の伝えた言葉を深掘りします。
僕が一度抽象化してしまった先生の意図は、下村さんの建築の知識が穴埋めをしていたんです。
これに気がついた時はとても衝撃的でした。
この建築家の特徴はこうで、藤森先生がこう言ったのなら、こういうことだろう、というのが浮かぶのだと思います。
先生の指示がないところも撮られます。
この建築家の作品ならここは撮っておかないと、っていうのがあるようです。
本当にすごいことです。
建築学生の頃、友人たちと「建築家」の「家」って何か、建築家って名乗れるのはどういう人か、なんていうことを議論していたこともよくありましたが、下村さんの撮影を横で見ていて、「建築写真家」は「建築」をそこまで知ってて初めて名乗れるのものなのか、と驚嘆しました。
今、私は編集の仕事のかたわら、少々ポートレート撮影などもしていますが、下村さんとの仕事の経験があったので、ポートレートの写真家は、きっと人のことがよく分かっていたり、女性のことをよく分かっていたり、そんなことが必要なんだろうな、と考えています。
ですから、私はいつまで経ってもフォトグラファーじゃなくてカメラマンなんだ、と。フォトグラファーとは名乗れないなと思ったりもしています。
そんな、プロフェッショナルな下村さんの写真もたっぷり楽しめる藤森先生の『藤森照信の現代建築考』。
ぜひお楽しみください。
下村純一(しもむら じゅんいち)氏 略歴
建築写真家、日本写真家協会会員。1952年生まれ。早稲田大学理工学部、同大学第一文学部卒業。株式会社博報堂勤務後、1986年より早稲田大学、武蔵野美術大学の非常勤講師として建築評論、写真撮影実習を務める。 主な著書に「織りなされた壁」グラフィック社、「不思議な建築」講談社、「細部の神々」平凡社、「アール・ヌーヴォーの邸宅」小学館、「銭湯からガウディまで」クレオ社、「感性のモダニズム」学芸出版社、「写真的建築論」鹿島出版会などがある。
藤森照信の現代建築考
文=藤森照信、撮影=下村純一 出版=鹿島出版会
2,600円(+税10%)
ISBN:9784306047013 体裁:A5・208頁 刊行:2023年8月
日本のプレ・モダニズムからモダニズムへの流れを、ライトから丹下健三、そして現代の第一線で活躍する建築家たちの作品を通して概観する。
明治初期に開拓した日本の建築という新しい領域にモダニズムが如何にして浸透してきたのか。日本の建築界は近代という激変の時代に、コルビュジエやバウハウスの影響を受けながらも対応してきた。時代を代表する建築家たちの45作品を通してその特質を考察する。
目次
まえがき:藤森照信
Group 1 モダニズムに共通する住まいの原型をつくり続けた建築家たち
ウィリアム・メレル・ヴォーリズ、フランク・ロイド・ライト、アントニン・レーモンド
Group 2 戦後の日本建築界をおおいに豊かにした建築家たち
本野精吾、村野藤吾、堀口捨己、今井兼次、白井晟一
Group 3 造形力、力動性と民族性、記念碑性を接合させたコルビュジエ派の建築家たち
前川國男、谷口吉郎、吉村順三、奥村昭雄、内田祥哉、丹下健三、片岡献、松村正恒、池辺陽、ジョージ・ナカシマ、吉阪隆正、浅田孝、ほか
Group 4 戦後モダニズムにおけるバウハウス派とコルビュジエ派の建築家たち
大高正人、菊竹清則、磯崎新、黒川紀章、仙田満、山崎泰孝、象設計集団、伊東豊雄、内藤廣、高松伸、藤森照信、ほか
取材後記 ─ あとがきにかえて:下村純一
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https://kajima-publishing.co.jp/books/architecture/v2t7-5ee3c/