![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/118140674/rectangle_large_type_2_51c42406564135fc31b2f18867b49b2f.png?width=1200)
【童話】「パンダくんとトラねこさん」 ウミネコ童話応募作
もりのなかにパンダくんがくらしていました。
パンダくんはおんがくがだいすきで、おともだちとえんそうしたり、うたったりしてすごしていました。もりのみんなはパンダくんたちのおんがくがだいすきでした。
あるときパンダくんがさんぽをしていると、よくひびくうたごえがきこえてきました。とてもすてきなうたごえだったので、もっとききたいとおもいました。
うたごえがするほうにパンダくんがむかうと、トラねこがいっぴきいました。おんなのこのねこです。しっぽにリボンをつけていました。こんなすてきなうたごえのもちぬしといっしょにうたえたら、とてもすてきなえんそうができるにちがいない!
そうおもってパンダくんは、はなしかけました。
「こんにちは!」
トラねこさんはうたうのをやめました。すこしはずかしそうです。
「こんにちは」
「とてもすてきなうたごえですね」
「ありがとう」
かのじょのえがおをみたとき、パンダくんはしんぞうがドキドキしました。
「ぼくといっしょにおんがくをやりませんか?」
パンダくんがゆうきをだしてさそうと、トラねこさんはうれしそうにうなずきました。
パンダくんがトラねこさんをなかまにしょうかいすると、みんなよろこんでくれました。
さっそくつぎのコンサートでいっしょにうたうことになり、にひきのうたごえがもりにひびきました。
するとどうでしょう、もりじゅうのことりたちがふたりのうたごえにあつまってきました。いままででいちばんたくさんおきゃくさんがあつまっています。
「すごい! こんなことははじめてだよ」
おともだちがくちぐちにさけびました。こうしてトラねこさんはパンダくんたちといっしょにおんがくをつづけることになりました。
あるときうかないかおをしているトラねこさんをみて、パンダくんがたずねました。
「どうしたの?」
トラねこさんはパンダくんのかおをみてためいきをつきました。
「わたしけっこんをすることになったの」
パンダくんはおどろきました。
「となりまちのタヌキさんのところにおよめにいくの」
タヌキさんはとってもやさしいし、およめにいくのはおめでたいけど、みんなとはなれてしまうのはかなしいの。と、トラねこさんはいいました。
パンダくんはことばにつまってしまいましたが
「そうなんだ。おめでとう」
とひとことだけいって、トラねこさんのそばをはなれました。
パンダくんのこころは、いろんなきもちでいっぱいでした。トラねこさんとはなれるかなしさと、いっしょにうたえなくなるさみしさ――トラねこさんがタヌキさんのところにおよめにいってしまうなんて! パンダくんのめからひとつぶのなみだがこぼれました。
パンダくんはそれからというものうたえなくなってしまいました。
なかまはとってもしんぱいしています。もりのみんなもパンダくんのうたごえがきけなくなって、ざんねんそうです。
「どうしたの? みんなパンダくんのうたごえをききたがっているよ。なにがあったの?」
パンダくんのおともだちのレッサーパンダくんがこえをかけてきました。レッサーパンダくんはパンダくんのふるくからのおともだちです。パンダくんのおんがくなかまでギターをひいています。レッサーパンダくんがたずねても、パンダくんほんにんもなぜおんがくができなくなってしまったのか、よくわかっていないようでした。だいすきなリンゴもバナナものどをとおりません。
「もしかして――トラねこさんがおよめにいってしまうからなの?」
レッサーパンダくんがおもいついたようにききました。パンダくんはうつむいたままでした。しばらくだまっていると
「ねえ――トラねこさんにパンダくんのきもちをつたえてみたら?」
レッサーパンダくんがそういいます。でもぱんだくんはじしんがありませんでした。
「ぼくがすきだっていってもきっとわらわれてしまうよ。それにトラねこさんはもうタヌキさんとけっこんするってきまってるし」
「じゃあ、くちでつたえられないのなら、おんがくでつたえてみたら?」
きみのきもちをきょくにしてトラねこさんにプレゼントしてみようよ。と、レッサーパンダくんはすすめます。
「きみがえんそうできないと、ぼくたちだってさみしいし、パンダくんがかなしそうならぼくたちだってかなしいんだよ」
しんけんなかおをしていうレッサーパンダくんのかおをみたら、すこしだけゆうきがでてきました。
「そうだ、くちにだせないならおんがくにしてみよう」
パンダくんはおれいをいうと、さっそくきょくづくりにとりくみました。どんどんちからがわいてくるのをかんじます。おんがくっていいな。そんなことをパンダくんはおもっていました。
いっしゅうかんほどがんばって、すてきなメロディができあがりました。レッサーパンダくんにきかせると
「いいきょくだね」とほめてくれます。
「トラねこさんに、しをつけてもらおうよ」
レッサーパンダくんがいいことをおもいついたかおで、そういいました。そしてへんじをするまえにトラねこさんのもとにきょくをおさめたきかいをもっていってしまいました。
それからまたいっしゅうかんほどたったころトラねこさんから
「しができたよ」とれんらくがありました。
トラねこさんはパンダくんがげんきになったのをみてうれしそうでした。にひきはおんがくにあわせてうたってみました。トラねこさんはたかいほうのメロディを、パンダくんはひくいほうのメロディを。うたいはじめるとすてきなハーモニーがひろがりました。ことりたちがあつまってきます。
「なんてすてきなきょくなんでしょう!」
口々にほめてもらってとてもいいきぶんでした。パンダくんがトラねこさんに
「すてきなしをつけてくれてありがとう」とおれいをいうと、そこにタヌキさんがむかえにきました。
「こんにちは。パンダさん」
タヌキさんはれいぎただしくあいさつをしました。
「とってもすばらしいきょくですね」
ニコニコとたのしそうです。
「パンダさん、こちらタヌキさんです」トラねこさんがしょうかいしてくれました。
タヌキさんはとてもやさしそうだし、たかそうなおようふくをきていておかねもちにみえました。パンダくんはとてもかなわないなとおもいました。
タヌキさんがトラねこさんをつれてかえると、パンダくんががっくりとかたをおとします。
レッサーパンダくんは、なにもいわずにパンダくんのそばにいてくれました。
きせつがふたつほどとおりすぎたころ、トラねこさんからけっこんしきのしょうたいじょうがくばられました。
「ぜひみなさんにきてほしいのです」
トラネコさんはパンダくんにもしょうたいじょうをくばりました。パンダくんはしょうたいじょうをうけとるとおおきくうなずきました。けっこんしきにはもりのみんなでしゅっせきします。
そのときにぱんだくんがつくって、トラねこさんがしをつけたきょくをえんそうすることになりました。
えんそうのために、パンダくんとなかまたちはまいにちれんしゅうをくりかえしていました。そのがんばりのおかげで、しきのひはすばらしいえんそうをきかせることができました。パンダくんはスッキリしたきもちでした。
しかしけっこんしきのあとのパーティで、トラねこさんがうかないかおをしています。
「せっかくすてきなけっこんしきだったのに、げんきがないね」
パンダくんがたずねました。
「ごめんなさい」
「あやまることはないよ。ただしんぱいなだけだよ」
トラねこさんがためいきをつきました。
「これからはだいすきなおんがくもつづけられなくなるし、おともだちともあえなくなるから」
タヌキさんはおかねもちだから、けっこんすればすてきなおうちでくらせます。でも、だいすきだったうたをやめないといけない。それがかなしいのだといいました。
「それはこまったね、なんとかつづけられないだろうか」
「それはできないみたい。タヌキさんにも“ぼくよりおんがくのほうがだいじ”なの? っていわれちゃった」
むずかしいしつもんでした。
「パンダくんとけっこんしたら、おんがくもつづけられるのにね」
いつのまにかはなしをきいていたレッサーパンダくんが、ふたりにわりこんできました。
「いまからでもおそくはないんじゃない?」
パンダくんはむせきにんなことをいうなよとおもいましたが、レッサーパンダくんはなんだかたのしそうでした。
トラねこさんはびっくりしてなにもいえなくなってしまいました。
「ほんとうはなやんでるの」
トラねこさんが、ちいさなこえでいいました。
「おんがくをやめてまで、けっこんしたいとおもってるのかわからなくなっちゃった」
するとそのとき、おともだちとはなしていたタヌキさんが、トラねこさんのまえにやってきました。
「ほんとうはぼくとけっこんしたくないんじゃないの?」
ちょっとおこっています。
「そんなことはないよ」
トラねこさんはあわてていいます。
「ただ、うたえないのがさびしいだけ」
「うそだ、ぼくといっしょにいてもいつもパンダさんのはなしばかりしているじゃないか!」
とつぜんじぶんのなまえがでてきたパンダくんは、ビックリしました。
「それは、パンダさんとうたうことがたのしかったから!」
「ぼくといるときよりも、たのしそうじゃないか」
タヌキさんがふまんをいうと、トラねこさんがなみだをながしました。
「そんないいかたはないだろ。だれだってじぶんのしゅみができなくなったらかなしいよ」
そうだそうだとなかまがいうと、タヌキさんはふてくされました。
「そんなにパンダさんがいいなら、そっちとけっこんしたらよかったじゃないか!」
タヌキさんはおこりながらひとりでかえっていってしまいました。しくしくないているトラねこさんをなかまがなぐさめます。
「ごめんなさい。わたしがわるかったの」
ないてばかりではいけないわ。と、トラねこさんはたちあがりました。
「わたし、ほんとうはパンダさんのおよめさんになりたかったの。だけど、タヌキさんとのけっこんをことわれなかった」
「そうだったの?」パンダくんはおどろいています。
「ぼくだってトラねこさんのことがすきだったのに!」
みんなだまってしまいました。するとレッサーパンダくんがいいことをおもいついた! とたちあがります。
「みんなでタヌキさんにおねがいしようよ。トラねこさんとパンダくんをけっこんさせてくださいって」
そのことばに、もりのみんながさんせいしました。そのあしでとなりまちのタヌキさんのいえにいきます。
「タヌキさん!」
トラねこさんがよびかけると、タヌキさんがかおをだしました。
「ごめんなさい。わたし、ほんとうはパンダさんとけっこんしたかったの」
タヌキさんはおこったような、かなしそうなかおでトラねこさんをみつめました。
「そうじゃないかっておもってたんだ」
タヌキさんはさびしそうでした。
「ごめんなさい」もういちどトラねこさんがあやまりました。
「おわびにリンゴをどうぞ」
レッサーパンダくんがリンゴをさしだすと、ほかのどうぶつたちもじぶんたちのこうぶつをさしだしました。タヌキさんのいえのまわりはどうぶつたちのおくりものでいっぱいになりました。
「もういいよ。ざんねんだけどごえんがなかったんだ」
たぬきさんはトラねこさんにいいました。
トラねこさんとパンダくんはもういちどあやまると、もりへかえりました。
もりにもどったぱんだくんがあらためてプロポーズをすると、とらねこさんはうれしそうにうなずきます。
そのご、パンダくんとトラねこさんはかわいいふたごのあかちゃんにめぐまれました。おとうさんそっくりなふたごのおとこのこです。こどもたちがおおきくなってからは、かぞくみんなでもりじゅうにすてきなうたごえをひびかせているそうですよ。
《おしまい》
本作品はウミネコ文庫「童話」作品に応募したものです。
後に細かい箇所を修正する予定です!
よろしくお願いいたします。