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桃太郎の思惑 #白4企画応募 

「これ、やるよ」
紅顔の美少年という言葉が良く似合う男に、岡山土産と言われて渡された小袋を見て、犬猿雉大輔(いぬさるきじだいすけ)は嫌な予感がしていた。

美少年は緒方桃太郎(おがたももたろう)。
高校二年生にもなるのに身長は155センチくらいしかなく、ブカブカの学ランが似合ってないことこの上ない。対して俺は身長だけは人並み以上の175センチ。体格はちょっとガタイがいいとしか言いようがない。
岡山土産は吉備団子。俺の大好物である。だが、昔からこの名字で弄られてきたので、あまり嬉しくない。しかもくれたのは「桃太郎」である。

「なんだおまえ、俺を家来にでもする気か?」
冗談のように言うと、
「実はそうなんだ」と真面目な様子で言ってきた。

普段彼はものごっつ真面目なクラスメイトで、アホなやつらの卑猥な会話や誰と誰が付き合ってる的な噂話にも付き合わない。そんな緒方がボケているのだ。ここはちゃんと突っ込んでやらないとダメだよな?と思う。
ただ、普段いじりやツッコミを受容出来ないコイツにどう声をかけたらベストアンサーなのかがわからずに黙っていると、緒方が重い口を開いた。
「なぁ犬猿雉、お前は鬼塚のことどう思う?」
 鬼塚拓郎(おにづかたくろう)は体育の先生だ。生徒達には人気で、とりわけ女生徒に人気のあるーーいわばイケメンって奴だろう。
「特に何とも思わんけど。女子は彼女いるのとかいろいろ騒いでるけど」
俺がそういうと、緒方はため息をついた。
「なんかあいつに目をつけられてるみたいで、放課後に体育教官室に呼び出された」
「マジで?」
放課後に体育教官室へ呼び出される生徒は、たいていやんちゃでどちらかというと教育的指導を受ける必要のあるやつらばかりだ。
「なんでお前が」
「しらないね、何にもした覚えないけどな」
緒方は肩をすくめた。唇を尖らせているような顔は、その辺の女子よりもかわいらしい。
鬼塚はイケメンで柔和な顔をしているが男子への指導は厳しく、体育教官室へ呼び出された生徒(大体が手の付けられないDQNと呼ばれている輩だ)は軒並み更生していると聞いていた。
「本当に何もしてない?」
「してない。だから、気持ち悪くてさ」
「うん」
「だから、ついてきてくんない?」
「え?」
緒方はおびえていて、ちょっとかわいそうな気持ちになる。気持ち面倒だと思うが、仕方ない。友人としてついて行ってやろう。
「わかった。かわいそうだからついて行ってやるよ。別にきびだんごで子分になったわけじゃねーからな」
「ありがとう!恩に着る!」
彼は嬉しそうに俺を見た。これが女子だったらなあと思っていることは、内緒である。

放課後に体育教官室へ二人で向かうと、
「俺、とりあえず一人で入ってみるから何かあったらよろしくな」
と、緒方が言うので、俺は一人扉の前で携帯の録音機能をオンにした後——黙って張り込んだ。
しばらく無音で、何をしているのかわからない。まあ何事もなく終わったらいいだろうし、何か手伝ってほしいなどの通常先生から生徒に依頼するような出来事ならば俺にも手伝う余地があるだろうと思い、じっとしていると

—―やめてください!!
中から緒方の叫び声が聞こえてくる。そしてやたらとハアハアしたような荒い息と、ドタバタと暴れるような物音。

そういえば緒方は、他校の男子生徒にナンパされていたこともあるくらいーー同性にモテるんだった。
先生がそういった下心で呼び出したのなら、彼の貞操の危機である。
「緒方、大丈夫か!」
突然のBL案件にビビりつつ、叫びながら外の扉を開けようとするが、鍵が締まっている。
俺は教室の窓のカギを外から開けて、窓を開け放った。

「犬猿雉!助けて!」
先生に押し倒されたのか、緒方の姿が机に隠れて見えない。俺は窓を乗り越えて教室に入り、人に見られないほうがいいだろうと窓を閉めて二人の元へ駆け寄った。





「大丈夫か?」
俺が緒方のもとにたどり着くと、彼は床に胡坐をかいて座っていた。
特に着衣に乱れたところはない。
「え?」
頭が真っ白になったところに、鬼塚が後ろから抱き着いてくる。
「犬猿雉くんだね、僕は君のような生徒が好きなんだよね」
体中触られ、耳を甘噛みされて背筋がゾクゾクする。

「ぎゃ!何するんですか。先生ともあろうものが!それに緒方。なんなんだよ、この状況は!」
「僕さ、まじめに授業受けてるのに体育の点数低くてさ。内申点足りないんだよね」
「そうそう、あまりに運動音痴だから緒方くんが行きたい学校に行くのにあと2点内申が足りなくてね。で、体育の点数上げてあげる代わりに条件を出したのね」
鬼塚は意味深な視線を送ってくる。
「条件?」
「そうそう。先生ガタイが良くて正義感の強い、フツメンが好きなんだよね。あんなに女の子にモテるのに、男にしか興味ないんだって」
「ええ?」
「僕も内申のためなら、好みのタイプだし先生にいろいろ捧げてもいいかなって思ってたんだど、先生は犬猿雉のことが好きらしくて」
「だからこうやって連れてきてもらったってワケ。さ、携帯出して」
「いつも胸ポケットに入れてるから、ここにあるよね?あ、あった」
緒方は俺の携帯を取り出し、録音機能をオフにする。
「ねぇ、僕も犬猿雉のことはずっと好きだったんだよ。知ってた?」
緒方と鬼塚の目が、怖い。
女が男から向けられるような目線が……痛いほど刺さる。

「そういうことは二人でやってたらいいじゃないですか!俺を巻き込まないでくださいよ!」
「駄目だよ、だって先生は僕のことタイプじゃないんだもん」
緒方が拗ねたように鬼塚を見る。
割とかわいい顔なので、ちょっと嫉妬のような気持ちがわいてくる。
「ああ、その顔!それが見たかったんだ」
緒方が自分の携帯で俺の写真を撮る。その間もどんどん服を脱がされる。

「さあ、僕の内申点のためによろしくね~」
天使のような顔に悪魔のほほえみをたたえながら、緒方は俺を見下ろすと
「家来は家来らしくしてたらいいんだよ」
と言いはなった。鬼塚が嬉しそうに俺を押し倒す。
「いいねー、その顔。前から君のこと気になってたんだよ」


鬼塚の背後で緒方が携帯の録画ボタンを押しているのが見える。あーあ、と俺は思った。




俺、犬猿雉大輔と緒方桃太郎は小学生時分からの恋人同士なのだが、たまにこうした刺激を好むことがあり、なにも知らない大人を巻き込んでのプレイに及ぶことがある。
大方の予想を裏切るようだが、俺が桃太郎を受け止める役割だ。桃太郎は可愛い顔をしているが、なかなかに歪んだ性癖の持ち主である。

鬼塚のことは前々から気にくわないらしく、いつか陥れてやろうと思っていたらしい。
ーーあーあ。内申点の上乗せじゃ済まないだろうなぁ。
鬼塚先生骨までしゃぶられるぞ。


そんなことを考えながら俺は、どう動いたら効果的に写るかを考えながら動き続けるのだった。

<完>

白鉛筆さんの企画を見つけて応募した、BL桃太郎です。
企画を見て二日で書いたので荒いですが、お口に合えば幸いです。

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