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清掃命!最強管理員イシザッキー現る?!〜働きやすさってなんだろう〜

そのマンションは、都内のとあるのどかな駅から15分くらい坂道を歩いたらやっと見えてくる100世帯くらい、7階建ての白い外壁が映える、よくあるファミリータイプのマンションだった。

当時30年くらい経っていたであろうこのマンション、オートロックもない玄関ではあるが、入ってみるとどうだろう、掃除も隅々まで行き届いているし、掲示板もきちんと更新されている。防災についての案内も完璧でゴミ置き場も匂いが全くない、いわゆる管理状態良好なマンションだった。

その管理状態を保っている1番の要因が、今回の主役である、イシザッキーこと石崎さんだった。

前に書いた記事でも触れたけれど、元自衛官の管理員さんは結構多い。そして、優秀だけど融通が効かない。
イシザッキーは典型的なそのタイプだった。

イシザッキーは、わたしのことは担当者なので上司として認識していたのであろう、基本的にはホウレンソウは完璧、無駄な電話もない。現場に任せた仕事は最後まで見届けてやる。
前任者からは、石崎さん、癖が強いからきたじまさん苦労するかもね、と言われていたものの、わたしはイシザッキーとの仕事は、とてもやりやすかった。

ファイリングや防災計画など、出来上がったものを自慢げに見せてくる姿は、さながらドーベルマンのようでちょっと可愛らしくもあった。

理事会の後、理事長に、
このマンション、前の管理員さんは女性の方で、住民がりあまり言うことを聞かなかったんだ。だからゴミ出しとかも結構めちゃくちゃで。でも石崎さんになってから、みんな言うこと聞くようになったね笑

と言われ、すべては上手くいっていると思っていた。


異変を感じ始めたのは、担当してから1年が過ぎる頃だった。

🐀うーん、、またか、、、

清掃会社からの連絡で、清掃員が交代することになった。
3ヶ月前に長年働いていた方が体調不良を理由に退職してからこれで3人目。あまりにも頻度が高すぎる。

清掃会社の担当者の出口さんに連絡をしてみた。

🐀いつもお世話になってます。出口さん、例の〇〇マンションなんですけど、清掃員さんまた交代されるんですね?

出口さん そうなんです、申し訳ないです、また新しいもの見つかるまで代行員派遣しますので。

🐀それは大丈夫なんですが、何か理由ありますか?こちらで対応出来ることならやりますので教えてください

出口さん はい、ご報告しますね!


マンションにとって、清掃員さんはとても重要だ。場合によっては、管理員さんよりも大事なこともある。

清掃はコツがいるので、上手な方が長く努めてくれるのがありがたい。

清掃のクレームはフロントにとって結構大変だからだ。
フロントの仕事や点検などに対するクレームの場合、そもそもが見えにくいし、理事会など特定の人からの苦情なので、対個人、対理事会の図式になるので複数から同時多発的に責められることはそんなにない。

しかしながら、清掃の場合、多くの人に同時に目に入るのと、証拠が明らかなので、
この汚れが目に入らぬか!と言われるとははあ…!と頭を下げるしかないし、中には今すぐ掃除しに来い!と言われたこともあるし、詰まってたゴミをビニール袋に入れて持ち帰らされたりしたこともある。

なのでいい清掃員さんは大切にしなきゃいけないのだ。


話を戻そう。

数日後、出口さんから電話があった。

出口さん ちょっと近くに来たので事務所お伺いしてもいいですか?

🐀 いいですけど、何かあったんですか?

出口さん 電話で話すのもなんですので、会ってお話しますね

ー数分後ー

出口さん 突然すみません、実は〇〇マンションの件なんですが、、言いにくいのですが、石崎さんが原因のようなんです。

🐀やっぱり、、

出口さんが言うには、3ヶ月前に体調不良の理由で辞めたAさんは、たまたまご主人がイシザッキー系だったので耐えられていたそうだが、それ以降の方はみなさん、数日でもう無理です、とのお申し出があったそうだ。

出口さん 出勤時間の15分前からミーティング、1時間ごとに持ち場のチェック、チェックするときも、こんなことも気づかないのか、とかそういう言い方をするみたいなんですね。で、退勤時間5分前から全体を回って、不備の箇所をやり直し!勤務時間なんてあったもんじゃなかった、そういうことらしいです。

🐀…

正直、最初に聞いた感想は、イシザッキーならやりかねない、だった。

そして、本人のその行動に悪意や悪気がないことも、わたしは理解していた。彼はとにかく真面目なのだ。綺麗にしたい。満足度をあげたい。自分の仕事を全うしたい。そのためには、一緒に分担する人間を管理しなくてはならない。

ただ、仕事というものは、一人でやるものではない。そのマンションをよくするパートナーとしていい関係を築いてもらわないといけない。

それでなくてもイシザッキー、点検会社さんへの態度が横柄(というか上からになってしまう)で注意したこともあるし、リフォーム会社から苦情をもらって謝ったこともある。

その中でも、清掃員さんと上手くやることは、業務の範囲内かつ最重要課題だ。

それが出来ない人間を、会社として働かせるわけにはいかない。

🐀 こちらが至らなくて申し訳ありません。指導いたしますので。

出口さん これからはこまめにマンションに行って、僕からも、石崎さんにちょっと口出しさせてもらいますね。きたじまさんから注意しても、なかなか石崎さん素直に聞かないでしょうし。

🐀ご配慮ありがとうございます。はい、お願いします、お手数お掛けしてすみません。


その後、結局、3人目の清掃員が辞めた。


清掃員さんが帰った頃の時間に抜き打ちでマンションに行くことにした。足取りが重いが仕方ない。

マンションについて、階段を上がる。塗装した床面を丁寧に磨くイシザッキーの姿が見えた。

モップを持っているピシッとした後ろ姿は、ただのおじいちゃんなのになあ。

🐀 石崎さん!

石 おお、ごくろうさん、どうしたんですか珍しい。

🐀 ちょっとお話しありまして、管理室いいですか?

ー管理室ー

石 どうしたんですか、遠いとこまでわざわざ。

🐀 清掃員の△△さん、辞められるそうです。出口さんから連絡ありました。

石 そうですか、、

🐀 石崎さん、ご自身でもちょっと厳しくしすぎてるな、とか自覚はありますか?勤務時間外に強制してはいけないのもわかってますよね。

石 ああ、、その件ですか、、

🐀 わたし残念ですよ、こういうことを石崎さんみたいな大先輩に言わなきゃいけないなんて、、もう注意されたことやらないって約束してもらえますか?

石 …たぶん難しいですわ。

🐀 え?

石 わたしは、こういう性格なんで、白黒はっきりつけなきゃ気が済まんし、なんで自分の仕事を時間途中、半ばで投げ出せるのか。理解できん。手を抜いてる人を見るのも耐えられん。これは自分ではどうにもならんのですわ。

🐀 …

石 どう言われても無理ですから。申し訳ない。辞めろというなら辞めますから。

🐀 …そんなの嫌です

🐀 …すぐ辞めるとかいうのやめてください!とにかくつい口出しそうになったら深呼吸して、怒鳴りそうになったら相手のことをお客さんだと思って丁寧に接してください。お客さんにいつも出来てるんですから、出来るはずです!今日はこれ伝えにきただけですので帰ります!お疲れ様です!

そう言い、逃げるように帰ったものの、こんなこと言ったところで、できるようになることはないのだ。そのくらいは分かっている。出来るならやってる。そんなの、本人が1番身に染みて分かっているだろう。

自分という人間をそう簡単に人は変えられない。
そんなことは、20数年ぽっちしか生きてない自分だって難しいのだ、70年近く生きている管理員さんたちが出来ないのは理解できる。

🐀 もう、この手しかないな…

🐀 課長、ご相談があります

ー数年後ー

おはようございます!


大きな声で挨拶するイシザッキーの姿があった。

その姿の後ろに見えるのは、ベージュの小さな3階建てのマンション。

そう、石崎さんには異動してもらうことにしたのだ。

ーあの日、帰社後の事務所ー

🐀 課長、ご相談があります…管理員さんって異動できるんですか?

🐻 どうしたの突然。基本はそういう対象じゃないから難しいと思うけど。

🐀 イシザッキーの件で、、やっぱりあの人は変わらないと思います。
でもそれを補えるくらいに、ちゃんと仕事してくれますし、お客さんの評判も悪くないです。でも、清掃員とは上手くやれないと思います。

だから、なんとか清掃員のいない、単独勤務のマンションに行かせてあげたいんです。異動取り計らっていただけませんか?

そこで、お給料は下がるものの、小ぶりな1人勤務のマンションでの勤務を打診した。

🐻石崎さん、異動するってさ。お給料のこととかも大丈夫ですって。自分でも結構気にしてたんじゃないのかな。

🐀だと思いますよ、あの人ツンデレですからね!悪い人じゃないんですよ!

🐻70弱のおじいちゃんにツンデレって…

🐀適材適所、ってやつですね!


管理業界はそもそもが人手不足。

今ある人材資源を活用してうまくやっていくしかない。

そしてこんなちょっと頑固なおじいちゃんたちが、余生少しでも健康に楽しく生活して、お金貰えるならいいね!と管理員さんになることをポジティブに捉えてもらえるようになってほしい。

(そしてうちの会社にいい人材が流れてきますように…)

そう思ってわたしは働いてます。

さて、次回は、管理員さんシリーズで続けて

わたしが尊敬している管理員さんの話

または

騒音問題の話

のどっちかかな。

お楽しみに!


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