ぼくは母校の文化祭へ行く

 ぼくは母校の文化祭へ行く。9月某日、ぼくが3年半前に卒業した高校で文化祭が開かれた。東京都立の高等学校である。まあ、学校名は書かないでおきます。ぼくみたいな異常者の母校だと判明したら、ぼくの母校は多大な損害を被りかねないので……

 ぼくが卒業してからの3年間、ぼくの母校の高校は文化祭を一般公開していなかった。感染症対策のためである。ついでに言うと、ぼくが3年生の時は文化祭自体が開催されなかった。2020年なのだから当然である。代わりに在校生のみ対象のミニ発表会が開催されたが、1・2年生の時みたいに一般客を相手にプラネタリウムを上演するつもりでいた天文部の部長(当時)としては、これはかなり残念な話だった。

 でもまあ、ぼくらの代はまだマシだ。ぼくの母校は2021年も文化祭を開催しなかったらしいから、ぼくらの一個下の代は「高校の文化祭」というものを2019年の1回しか経験できていない。ぼくらの二個下の代も2022年の1回しか経験できていない(しかも一般公開なし)。新型コロナウイルス感染症がこの世に現れる前、フルスペックの文化祭を2回経験できただけでもぼくらの代は恵まれている。

 さて、前フリが済んだところで本題に移ります。本日のnoteはできるだけ文字数短めで終わらすつもりなのでね。

 8月下旬、ぼくのスマホに土井(高校時代の天文部の同期)からLINEで連絡があった。「5年ぶりに母校の文化祭が一般公開されるから一緒に行かないか」という連絡だった。正直言って、ぼくはあんまり気が進まなかった。だって、行ったところで知り合いがいない。現役生とは世代が4学年以上離れているのだ。受験を考えている中学生の弟がいるわけでもないし(そもそもぼくに兄弟はいない)、卒業して3年半も経っているぼくらが行ったところで「OBの冷やかし」にしかならないだろう。

 だいたい、ぼくは土井のように愛校心が強かったりしないんだよな。いや、母校に対して愛着はあるし、たまにメディアで紹介されてたら「おっ」と思いますよ。普通に良い高校だと思うし、受験を考えている中学生がいたらお勧めする。でも、そういうことじゃなくて、ぼくは巣立った組織への執着を気持ち悪いと思ってしまう性質なんだよな……みたいな話をすると長くなるのでやめます。ともあれ、ぼくは母校の文化祭に行く意味を感じていなかったということです。

 ただまあ、土井はいま東北の大学に通っているからしょっちゅう会えるわけじゃないし(この前会ったのはお正月)、提示された日は何も予定が入っていなかったし、社会人になったら高校に行く機会なんてますますなくなるだろうなと思ったりもしたので、ぼくは土井に「その日なら空いてるよ! 行きましょう」と返信したのである。

 9月某日、午前11時。母校の最寄駅前で待ち合わせ。この駅で降りるのはめちゃくちゃ久しぶりだ。わあ、懐かしい……けど、ここは毎日のように通っていた場所でもあるので、「懐かしい感じ」と「いつもの感じ」が交錯したような感覚になった。卒業して3年半経っても体は高校生活を覚えているってことだな。この分だと、母校の小学校や中学校に行ってもぼくは同じ感覚になるのかもしれない。

 改札を出てエスカレーターを上がって地上へ。すでに土井は到着していた。土井の実家はこの近くにあって、数日前から実家に帰省しているのだという。「久しぶりに来たわ……でも、ここにこんなビルあったっけ?」「入学前からあるよ(笑)」といったやり取りをするかしないかしているうちに、すぐさま高校に到着。そうなのです。ぼくの母校の高校は、最寄駅から非常に近い場所にあるのです。

 やはり「懐かしい感じ」と「いつもの感じ」の両方を感じながら、高校の正門を通過し、玄関の前に設置されている受付のテーブルへ。受付係の生徒の一人から「中学生の方ですか?」と声をかけられた。まさか! どこからどう見てもぼくらは大学4年生にしか見えないはずですけど。百歩譲って土井は中学生っぽいとして、ぼくもそんなに幼く見えるんですかね?

 「いえいえ! 卒業生です!」と言って、出された用紙の「人数」の欄に「2名」と書いて提出。文化祭のパンフレットを受け取る。いざ校内へGO。入る時には名前や電話番号を書かなきゃいけないのかなと思っていたので、こんな簡単に入校できちゃうんだとちょっと拍子抜けしたが、まあ、中学生に見えるようなショボい二人組が自爆テロリストのはずはないしな。いや、自爆テロのことは詳しくないですけど。

 土井はスリッパを持ってきていたが、ぼくは見事に持ってくるのを忘れたので入口の生徒から「○○高校」と書かれた茶色いスリッパを借りる。こんなスリッパ初めて履くなあ。きっと来賓向けなのだろうなあ。それを履いてまずは3階へ。ぼくらが高校時代に所属していた天文部の展示教室だ。

 その展示教室の入口の写真がこちら!……とご紹介しようと思ったが、写真をまるまる載せるのは現役生に申し訳ない(どこの高校だか一発でバレてしまう)(厄介なことになりかねない)ので、一部分を拡大してコラージュした写真を載せることにします。ぼくの超低機能スマホで撮った写真を拡大したものなので画質がとんでもないことになっていますが、逆にこれで高校の特定は難しくなったのではないでしょうか。

天文部の展示教室の入口

 教室の中では合宿の記録をまとめたパネルだとか、観望会(天体観測会)の記録をまとめたパネルだとか、太陽と8惑星の模型が展示されていた。この太陽と8惑星の模型はぼくらが入学する前……どころか、ぼくらの二個上の肥後先輩たちが入学する前からあったもので、肥後先輩によると昔の天文部の部員たちが一つひとつ手作りしたものらしい。ぼくらが現役だった時も文化祭で展示した。いやあ、まさかコロナ禍を経ても文化祭で展示されているとは……。感動の再会すぎる。

 模型はどれもぼくらが現役だった頃と比べて劣化しておらず、色が鮮やかなままだった(特に太陽と天王星と海王星の彩色が美しいと思う)。ぼくらが卒業したあとも捨てられず綺麗なまま生き残っていたなんて。こうしてまた展示されているなんて。ちょっと泣きそうだよ……

 残念ながら写真は撮り忘れたので、その代わりに、ぼくが高校2年生の文化祭の時に記録用で撮った海王星模型の写真を貼っておきます。例によって一部分拡大ver.です。

ぼくが現役時代に撮った海王星模型の写真(2019年9月撮影)

 土井から「惑星の模型は展示してるけど星図は展示してないんだね」的なことを言われたが、ぶっちゃけ、いまから4年前・5年前に自分たちが何を展示したかなんてぼくは覚えていない(あとで昔の写真を見返して思い出しました)。現役時代にぼくが文化祭で頑張ったのはあくまでプラネタリウムなのだ。模造紙に色々書いたり、部の同人誌を作ったりもしたけど、プラネタリウム上演の記憶に比べたらどうしても霞んでしまう。

 では、今年の天文部のプラネタリウムはどうだったかというと、教室の隅に段ボールで作った小さいドームが置かれてあって、そこの天井に星座を映しっぱなしにしているというスタイルだった。つまり、プラネタリウムの上演ではない。プラネタリウムの装置の展示である。

 ぼくの現役時代のプラネタリウム(1時間おきにお客さんを各回30~40人集めて上演)と比べるととんでもなく味気なくて寂しかったが、まあ、現役生がこれでいいと考えているならこれでいい。今後ぼくみたいにエンターテインメント志向の強い生徒が天文部に入部したら、いずれまた演劇型のプラネタリウムが復活するだろう。

 ぼくも土井もドーム内で星座の写真を撮ったので、せっかくなので載せておきます。土井からはあとからLINEで写真が送られてきたけど、やっぱりぼくのスマホのほうが画質悪いよな……。っていうか、土井の撮ったほうは一丁前に暗視補正がかかってるし。ぼくの低機能スマホにそんな補正機能はありません!(……あるけど知らないだけか?)

ぼくのスマホで撮った天文部プラネタリウムの写真
土井のスマホで撮った天文部プラネタリウムの写真

 プラネタリウムが味気なかった代わりに、黒板めがけて矢を飛ばすダーツのコーナーがあって、現役部員の案内でプレイさせてもらった。その時、よせばいいのに土井が「実は自分たちは天文部のOBです」と現役部員たちに自己紹介した。女子部員のほうは「あっ! そうなんですか!」とリアクションしてくれていたけど、男子部員のほうは「へえ」と言いつつちょっと面倒くさそうな雰囲気だったな。

 土井が現役生相手に「自分たちはコロナ禍前に文化祭をやった最後の世代で……」「自分たちが現役の時は星図の展示もして……」的なOB目線のウザい話をし始めたので、ぼくはいたたまれなくなり、「いや、過去の話すぎますよね。大昔の人間が来ちゃってごめんなさい」と冗談っぽく言って土井の話を強制的にフェードアウトさせた。そして、かばんの中から歌舞伎揚げを取り出して、「もしよかったらみなさんでお食べください」と言って現役生たちに渡した。この歌舞伎揚げは、本当は土井にあげるつもりで事前に買っておいたものである。

 そのあと、ぼくらは隣の教室でやっていた化学室の展示へ行った。電極の実験があったり、液体窒素の実験があったりして、アトラクション的には天文部より化学部の展示のほうが面白いのは昔からのことだ。

 振ると色が変わる液体のコーナーに近寄ったら、かわいい系の男子部員がぼくらに「これはこういう実験で……」と話しかけてきてくれた。実演しながら一方的にいっぱい喋ってくる。「ぼくは化学部ではあるんですけどメインは天文部で……」とも言ってきたので、思わずぼくは「ぼくと同じだ」と反射的に答えてしまった。そう、ぼくも現役時代は天文部(部長)と化学部(副部長)を掛け持ちしていたのだ。

 「あっ、OBの方ですか?」ということになって、そのかわいい系男子部員はぼくらに心を開いたのか、こちらが尋ねているわけでもないのに「2週間前の体育祭は暑くて大変で……」とか「体育祭では『東海道』の上に乗る役だったんですけど……」とか喋ってきて、ぼくもついつい雑談に加わってしまった。そのかわいい系男子部員(1年生と判明)によると、現在の天文部は兼部者も含めて30名ほど部員がいるらしい。ぼくが「さ、30人!? 多すぎるだろ」と反応したら、またそこから話題が広がってしまって、なんかぼくらはその子とめちゃくちゃ意気投合しました。現役高校1年生との交流、なかなか悪くないものですね……

 そのあとは、他の現役部員たちとも話したり(みんな朗らかで馴染みやすい子たちだった)、生物部の展示を見に行ったり(天文部の顧問だった先生に会った)、家庭科部の販売所でクッキーを買ったり(体育祭の立て看板係で一緒だった後輩に会った)、購買のコーナーでパンとジュースを買ったり(相変わらず値段が安かった)、化学部の2年生の男子部員が兼部している軽音楽部のミニコンサートに行ってみたりした(化学部の子はギター担当だった)。まあ、普通に高校の文化祭を楽しんだ。

 図書室も一般解放されていたので寄ってみた。部屋の雰囲気、何も変わってないなあ。文化祭開催中だけど自習コーナーでは3年生たちが普通に受験勉強していたりして、その光景もぼくの現役時代と変わらない。「人気の本」コーナー(「おすすめの本」コーナーだったかな?)に『成瀬は天下を取りにいく』とかが並んでいた以外は蔵書もほとんど変わっていなくて、ぼくが高校生の時にこの図書室で読んで感銘を受けた本なんかもすぐに見つけることができた。

 さて、一通り楽しんだのでそろそろおいとましよう。玄関でスリッパを返却。学校を出る。土井と一緒に学校の近くのジョナサンへ行き、少し遅めの昼食を食べることに。このジョナサン、高2の冬に付き合っていた彼女(ぼくがゲイなのを知らずに告白してきた後輩)とたまに行っていたなあ。あんまり良い思い出じゃないけど……

 ジョナサンでシーフードグラタンを食べながら、土井と近況報告などを交わす。土井は大学で自転車の部活に入っているのだが、この前サイクリング大会みたいなのに出て良い成績を残したらしい。あと、夏休みにヨーロッパへ一人で旅行に行ったらしい。家にテレビがないらしい。理系なので大学院に進むらしい。ご両親がアウトドア派でよく山登りに行っているらしい。それから……まあ、色々聞かされた気がするけど、いまのぼくの記憶に残っているのはそれぐらいだ。ちなみに、土井はお酒が一切飲めないので、ぼくもジョナサンではアルコール類は頼まなかった(禁酒偉い)

 そのあとは、土井が「おかん(母親)がそろそろ外出先から帰ってくる時間だからもう帰らないと」と言ったので(マザコンか?)、ぼくらは駅前で解散した。ぼくは改札を通過し、エスカレーターを降りてホームへ。ああ、この駅のこのホームで学校帰りに電車が来るのを待つ感じ……ものすごく懐かしい……。同じクラスだった徳重くんとよく一緒に帰っていたこととか、3年生の時の分散登校のこととか、登下校時の状況を色々と思い出す。昨日のことのように思い出す。やっぱりぼくの体は高校生活を覚えている。

 ぼくは母校の文化祭へ行く。さっき「愛校心はあまりない」みたいなことを書いておいてアレだけど、やっぱりぼくはこの高校で3年間を過ごした人間なんだよな。天文部や化学部や図書室や学校の近くのジョナサンや最寄駅のホームの思い出も含めて、ここでの高校生活が自分のアイデンティティになっている。社会人になる前にそれを自覚できただけでも、ぼくは今回、母校の文化祭に行ってみてよかった。まさに「ひとに歴史あり」ですな。

 うん、ここで照れずに書いておこう。ぼくはぼくの母校が大好きです。この高校で3年間を過ごしたことを誇りに思っている。なんかさ、卒業生がこれ言ったら茶番ですが、本当に素敵な高校だと思う。現役生も好感の持てる子ばっかりだったしね。中学生とその保護者のみなさま、もしよかったら受験の検討をぜひどうぞ。ぼくはぼくの母校を自信をもってお勧めしますよ。まあ、天文部の部員がいま30人もいるっていうのはいささか異常だと感じたけども……(高校生の間に宇宙ブームでも来てるのか?)

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