ぼくは失恋のショックから立ち直れない
ぼくは失恋のショックから立ち直れない。今月上旬、ぼくは放送サークルの合宿での雑談で、深田に彼女ができたことを知った。深田というのは、大学の放送研究会の2個下の高身長の爽やかイケメンである。
約2年前に知り合って以来、ぼくはずっと深田のことが好きだった。深田への想いは過去のnoteに散々書いたのでここでは繰り返さないけど、「深田はまず間違いなくノンケだよな」とあきらめつつ、「でもぼくが深田と付き合える可能性はゼロではないよな!」と淡い期待を抱き続ける、そんな約2年間だった。
「深田に彼女ができた」「お相手は葵ちゃん(放送研究会の深田の同期)である」ということを知ってからもう2週間以上経つが、いまだにぼくは深田のことを考えてしまう。考えるのはよくないことだと頭では理解しているのに考えてしまう。
この2週間、深田のことを考えないようにするために、本を読んだり、映画を観たり、由梨(彼女)と一緒に吉祥寺美術館の『キチジョー人』展へ行った時の話をnoteに書いたり、エラリー・クイーンの『ローマ帽子の謎』を読んだ感想をnoteに書いたりしてみたが、それでもやっぱりぼくは深田のことを考えてしまう。唯一、脚本の執筆に没頭している時だけは深田のことを考えずに済んでいるけど、執筆が一段落する度にやっぱりぼくは深田のことを考えてしまう。
それじゃあいっそのこと、とことんまで深田のことを考えてみようと決意して、わざと「ぼくは深田のどこを好きだったのか」「どれぐらい好きだったのか」を深く振り返ってみたりもしたが、これは振り返っている途中にあまりにも胸が苦しくなったので中止した。ぼくは現実と向き合うのが苦手な人間なのである。
それにしても、ぼくはどうしてこんなにもショックを受けているんだろうか。好きなひとに彼女ができた。ただそれだけのことじゃないか。しかも深田はぼくにとって片想いの相手にすぎない。ぼくと深田は交際フラグが立っていたわけでもないし、二人だけの特別な思い出があるわけでもない。ぼくが深田に彼女ができたと知ってショックを受けるのは、岡田将生ファンの一般人が岡田将生の結婚を知ってショックを受けるのとほぼ同じ構図であり、世間的にはバカにされて終わりの話である。
それに、ぼくは深田に告白して振られたわけではない。深田から直接拒絶されたわけではない。「彼女がいること」は「ノンケでないこと」を何ら意味しないので(世の中にはゲイなのに彼女がいるやつもいる)、実は深田はゲイかバイセクシュアルだという可能性はある。今後、深田が彼女と別れてぼくと付き合うことになる可能性はある。……いや、99.9999999%ないとは思うが、それを言うなら「99.9999999%ない」のはこれまでだって同じだったわけで、ぼくと深田の関係は実は何も変わっていないはずである。
それじゃあぼくは何を改めてショックを受けているのかというと、もう深田を好きでいることが許されなくなってしまったからなんだろうな。「付き合うことは99.9999999%あり得ないだろうけど、でもぼくは深田が好きなのだ」と開き直ることすら許されなくなったっていうか。
もちろんぼくが誰のことを好きになろうがぼくの勝手だが、それはあくまでも日本国憲法第19条が定める「思想・良心の自由」的な話であって、ぼくのちっぽけなモラルはそれを許さない。恋人がいるひとを好きでいること。それはぼくとしては「よくないこと」のように感じる。たとえぼくの内心に留まる感情にすぎないとしても、恋人がいるひとを好きでいることは、そのひとを汚し、そのひとの恋人を汚し、そのひとに関係する世界のすべてを汚すことのように感じる。
それになにより、恋人がいるひとを好きでいることは、ぼく自身の精神衛生に「よくないこと」のように感じる。略奪でもするなら話は別だが、そういうわけでもないなら、ぼくはそのひとが恋人と上手くいかなくなって別れるのを待たなければならない。その状況に自分を置くのがいやだ。ぼくは他人が不幸になることを自分の幸せに結び付けるような非道な人間にはなりたくないし、そもそもそんなに忍耐強くない。
唯一ぼくに残された解決策は「深田が幸せならそれでいい」という境地に至ることだが、残念ながらいまのぼくはそんな境地に至れそうにない。深田には幸せであってほしいが、その幸せは「ぼくとともに」の幸せであってほしい。ぼくも一緒に幸せになりたい。わがままを言うようだが、ぼくは大貫妙子の「横顔」に出てくるような立派な女性では全然ないのである。
こんな気持ちになるぐらいなら、きちんと告白してきちんと振られておいたほうがよかったのかなあ。そうすれば「99.9999999%ない」が「100%ない」になってスッキリしたかもしれない。きれいさっぱり深田を忘れられたかも。
まあ、いまとなってはもう手遅れですけどね。さすがにぼくは彼女がいる男に告白するほどヤバいやつじゃないんで。それに、告白して拒絶されたらそれはそれでショックを受けただろうし。高校2年の時に須川くん(同級生)に告白して振られた時もキツかったもんな。深田だって告白されたら困っただろうし、やっぱりぼくは告白しなくてよかったんだと思う。
ぼくは失恋のショックから立ち直れない。しばらく経てばこの苦しみは消えてなくなるか、思い出しても苦しまない記憶に変わるのだろう。須川くんに告白して振られた件も、あれから5年以上経ってもはや「いい思い出」に変わってるもんな。……いや、「いい思い出」ではないか。でも、思い出しても胸がバクバクするほど苦しくはないし、あんな時代もあったねときっと笑って話せる感じである(中島みゆきは偉大)。
最後にこれだけは書いておこう。深田は素敵なやつだ。外見だけじゃなく中身もきっと素敵なやつだ。ぼくより背が高いくせにぼくの背後に隠れようとする人見知りなところがあるし、みんなの前でスピーチするのが恥ずかしいからってぼくにスピーチ役を押し付ける失礼なところもあるが、そんなシャイなところも含めてぼくは深田が大好きだった。深田のことが大好きで、深田のことを考えている時はだいたいいつも幸せだった。
ねえ、フッカ。この2年間、片想いさせてくれてありがとう。ぼくはフッカに出会えて幸運だったよ。それから、ぼく。深田を好きになるって良いセンスしてるよ、本当に。いつかどうせ立ち直っちゃうんだから、いまはせいぜい胸の苦しみを味わっていればいいんじゃないかな。うん。きみがいまだにあいつのことを好きだってことは知ってるけどさ。