ぼくはMBTIを信じない
ぼくは意外と占いが嫌いではない。いや、科学的正当性は一切認めないのだが、エンターテインメントとしてはまあまあ楽しむ。例えば、ぼくはいま大学の放送研究会の後輩の深田という男子に片想いしているのだが、ネットの無料占いサイトでぼくの星座と深田の星座をマッチングさせて相性を占ったりしている。それで良い結果が出たらうれしくなるし、悪い結果が出たら「こんなものに信憑性はねえ!」と自分で自分に言い聞かせつつショックを受ける。えっと、ぼくって乙女なのです。
ただ、MBTIについては最初っから信用していない。エンターテインメントとしても楽しんでいない。なんていうか……胡散臭いのだ。胡散臭いのに「わたしは占いとは違いますよ。科学的根拠がございますよ」みたいな顔をしているのが余計に信用ならない。いや、ぼくの偏見ですけどね。
ぼくが初めてMBTIの性格診断テストをやったのは一昨年のこと。まだMBTIが大々的に流行る前のことである。空きコマに放送研究会の部室に寄ったら、浅野とか佐々木とか多田野が「えー! わたしは○○だあー!」「当たってるかもー!」などと盛り上がっていて、佐々木と多田野が「(ぼくの下の名前)さんはMBTI知ってますか? やったことありますか?」と聞いてきたのだ。それがぼくとMBTIのファーストインプレッションだった。
浅野は占いや心理テストが好きな人間である。どこまで本気で信じているのかは知らないが、番組発表会の日程を決める幹部会で「でもその日は仏滅だから……」と真顔で言ってしまう程度には占いに洗脳されている。そんなわけだから当時、浅野は顔を合わせた知り合いにMBTI診断を半ば強制的にやらせていたのだった。ぼくが「エムビー……? なにそれ?」と答えると、もちろん、ぼくもその場でMBTI診断をやらされた。
ここでMBTIが何なのかを知らないごく少数のひとのためにMBTIが何なのかを説明しておくと、MBTIとは、アメリカだかどっかの学者だか作家だかが開発した性格診断テストで、93問の質問に答えると16種類の性格タイプのどれかに分類されるというやつだ。
質問というのは具体的にはこんな感じのやつである。
浅野たちに急かされて部室でMBTI診断テストをやってみた(やらされてみた)結果、ぼくの性格タイプは「提唱者(INFJ型)」だった。それから1か月ほど経ってまたやってみた時もやっぱり「提唱者(INFJ型)」という結果が出たから、MBTIの公式的には、ぼくは根っからの「提唱者(INFJ型)」ってことなんだろう。
はい、ぼくはMBTIを信じません。ぼくはそんな立派な人間じゃありませんもの。「お金や地位を得ることを成功とは考えていず」というのは当たっているかもしれないが、それはぼくが世のため人のためを考えているからというより、お金持ちになることも地位を得ることもあきらめているからにすぎません。ぼくみたいな人間は「ぼくは金欠だ!」と嘆きながら死んでいくのがお似合いだ。
たしかにぼくは「人に理解されない」し、「社会全般と相いれない」。がしかし、それは「人生の目的を見つけたいという深く揺るぎない思い」があるからじゃなくて、単純にぼくが堕落した変人だからだ。ぼくは人生の目的なんて気にしないタイプである。人生は死ぬまでの暇つぶしだと考えているタイプである。
これもなあ。どうしてMBTIの連中(?)はぼくを「世のため人のために使命を捧げる」みたいな人間にしたがるのか。どう考えても、ぼくはそんな大層な人間じゃない。早瀬(学部の後輩)のためにレジュメを何枚もコピーしてやったのに(文字の濃さが薄いかなと思ってコピーし直したりもした)、それを渡した時に早瀬から「助かります~」の一言で片付けられたのをいまだに根に持っている人間──それがぼくだ。っていうか、むしろぼくの周りの人間はぼくをもっと支援してくれ。ぼくをケアしてくれ!
大外れもいいところだ。ぼくには「思いやりの心」なんてものは欠如しているし(その証拠に読者のリーダビリティを無視して毎回長文のnoteを書いています)、「頭と心のバランス」を取るのは本当に苦手。大の苦手。MBTIの連中はぼくのことをこれっぽっちも分かっていない。ただまあ、「時には小休止を取り自分自身をケアすることです」という温かいお言葉には感謝申し上げますがね。
……とまあ、自分の診断結果すら信じていないぐらいなので、ぼくは他人のMBTIの診断結果にも関心がない。ぼくに性格診断をやらせた佐々木や多田野の性格タイプが何だったのか憶えていないし、この話題の発信元である浅野の性格タイプが何だったのかももちろん憶えていない。
ただし、香川(学科の友人)、由梨(彼女)、藤沢(放送研究会兼インカレサークルの一個下の後輩)、阿久澤(放送研究会兼インカレサークルの二個下の後輩)の性格タイプについては話が別である。この4人の性格タイプについてはぼくは憶えている。
一人目。香川。学食で一緒に昼食を食べている時にぼくは「この前部室でこんなの(MBTIの性格診断)をやらされた」という話をした。香川は意外とこういう心理テストっぽいやつが好きな人間なので、「そんなのあるんだ。気になる」と言ってスマホを取り出し、その場で自分から性格診断をやり始めた。そういうわけなのでぼくは香川の性格タイプは憶えている。香川は「建築家(INTJ型)」である。診断結果が出た時に香川が「おれの従兄弟が建築士やってるわ(笑)」と言っていたのでよく憶えている。
たしかに言われてみれば香川はそんな感じかもなあ。「映画や小説に出てくる悪人」タイプというのは的外れだが、他人の視線を気にして怯んだりしないし、噂話に関心を示したりしないというのは当たっている。共通の知人の噂話(恋愛関係の話)をした時も無表情で一蹴されたし。
「矛盾に満ちているのが建築家です。想像力豊かでありながら、決断力がある。野心的でありながら、人前に出たがらない。好奇心旺盛でありながら、集中力がある」というのもめちゃくちゃ当たっている。香川は企画を立てるのが得意だが、目立ちたがり屋ではない。心理テストは好きだが、陰謀論は冷たく撥ねのける。中学・高校では陸上部だったが、大学では茶道部に入っている。タイパを重視しているくせに、ぼくを誘って無駄な時間を過ごそうとする。つかみどころがないようでいて誰よりも地に足がついた男、それが香川なのである。
二人目。由梨。ぼくと由梨がMBTIの話題を初めて交わしたのは、ぼくが部室でMBTIの性格診断をした少しあとのことだ。由梨はその時にはもう友達から教わってMBTIの性格診断をすでにやっていて、「MBTI? わたしは何だったかな……『冒険家(ISFP型)』だったよ」と教えてきた。香川が意外と心理テストが好きなのは対照的に、由梨は意外とこういうのには興味がない。知り合いから誘われたら付き合いで乗っかるぐらいの感じ。まあ、これぐらいが世間一般のふつうの感覚なのかなあ。
これは完全に当たっている。デートの時、ぼくは事前の予定が狂うとパニックになるが、由梨のほうはまったく動じない。「それなら先にこっちを回ろう」とか「それなら目的地を変更しよう」と平然と提案してくる。それどころか、付き合った当初は集合時間と集合場所だけ約束して「どこに行くかは当日会ってから決めよう」と言ってくることさえあった。さすがにそれはぼくのほうからお願いしてやめてもらいましたけどね。
「飛び抜けて寛容で、広い心を持っています。自分と全く違う考えやライフスタイルの人も含めて、多種多様な人がいる世界に生きることを心から楽しいと感じるのです」というのも当たってるな。由梨は他人を否定しない。ぼくが「他人からこんなこと言われて困った」的な話をしても、「そのひとはこういうことを言いたかったんじゃない?」と深遠な見解を示してきて、その度にぼくは自分の未熟さを思い知る。ドッキリ番組をどう思うかで意見が分かれてJR中央線の車内で喧嘩になりかけた時も、「価値観はひとそれぞれだからね」となって対立が鎮火したのは由梨のおかげだ。
三人目。藤沢。ぼくにとって藤沢は切っても切れない仲である。偉そうな言い方をすると、ぼくの「右腕」っていうか。放送研究会でもインカレの放送サークルでも独創的な番組(映像バラエティ)を作るし、運営面でも率先して動いてくれていて頼りになるのだが、性格にはちょいと難がある。「毒舌」というか「辛口」というか、シンプルに口が悪いのだ。別にそれで仲間内で嫌われているわけではないので大きな問題はないのだが、第三者からは誤解を受けるだろうなと思う。
だから、藤沢から「自分は『冒険家(ISFP型)』です」と知らされた時は驚いた。由梨と同じ性格タイプだからだ。藤沢はどう考えても「飛び抜けて寛容で、広い心を持っています」という人間ではない。由梨との共通点は「ぼくとよくつるんでいる」の一点だけだ。ただ、「クリエイティブかつ自由奔放、そしてマイペース」とか「「自分が誰かに嫌われている」「認めてもらえていない」「理解されていない」と感じると、取り乱してしまうこともあります」とかはかなり当たっているな。藤沢は他人からの評価を過剰に気にしがちなところがある。
四人目。阿久澤。藤沢の一個下の後輩(つまりぼくの二個下の後輩)で、放送研究会でもインカレの放送サークルでも渉外をやってくれている男子である。キュートな顔立ちという意味でなく、「弟系」という意味でふつうにかわいい。ぼくの恋愛対象ではないですけどね。明るくて、和やかで、話しやすくて、番組制作も渉外も人一倍頑張っているから、学年や性別を問わずみんなから愛されている。阿久澤のことを嫌いなやつはこの世に一人もいないだろう。そんな阿久澤の性格タイプは「仲介者(INFP型)」だ。
「行動を起こす代わりに空想にふけってしまう傾向もあります」というのが当たっているかは不明だが、「他の人が持つ否定的な考え方や気分を吸収しがち」というのはその通りだなと思う。番組発表会の全体リハーサルなどで誰かが不機嫌になって険悪な空気になると、阿久澤の顔からはいつもの明るさが消える。自分が怒られたわけでもないのにビクビクして、しばらく不安感を引きずる。そんな時、ぼくは阿久澤に近寄ってくだらない軽口を叩くことにしている。阿久澤をリラックスさせてやるためだ。そうすると阿久澤は「そんなわけないじゃないですか(笑)」とか「またバカなこと言って」とぼくにツッコんできて、ようやく笑顔を取り戻す。阿久澤は実はものすごく感受性が強いやつなのだ。
……というわけで、……あれ? なんだか「MBTIって結構当たってます」みたいな話になっちゃったぞ……。いや、ぼくについての性格診断は全然当たってないんだけど、他の4人(ぼくが性格タイプを記憶している4人)についてはだいぶ当たってますねっていうか。おかしいなあ。こんな記事を書くはずではなかったのだが。こんな展開は想定外だ!
まあ、考えてみりゃ、MBTIの診断結果なんて「○○タイプの人は約束を守ることを重視します」とか「××タイプの人は長期的な計画を立てるのが苦手です」といった文章のオンパレードで、「そう言われたらそうかもな」と思い込まされる感じのやつだからな。だいたい、93問の質問に答えさせた上で「あなたはこういう性格です」と提示してくるのは「『魚より肉が好き』かつ『鶏肉より牛肉が好き』と答えたあなたの好物はハンバーグでしょう」みたいな説明と同じで、大きく外れているわけがないのである。
……と考えると、もしかしたらぼくのMBTIの診断結果も、ぼくの性格傾向としてはさほど外れていなかったりするのかなあ。実際、香川も由梨も藤沢も、ぼくが「提唱者(INFJ型)」だと知って「当たってんじゃん」「当たってる」「当たってますね」と言っていたしなあ。「自分がいちばん自分のことを知らない」ということわざ(?)もあることだし、ぼくは自分の性格を自覚できていないだけなのかも。あるいは無意識レベルで診断結果を認めたくないとか。
考えれば考えるほど謎は深まるばかりだが、これ以上考えたところで答えは出なさそうなのでやめておく。謎といえば、そもそもぼくが何のためにこの記事を書き、なぜこの記事がこんな長文になっているのかも謎だ。自分では1,800~2,000文字程度で収めるつもりだったんだがなあ。6,800文字。異様な長文。我ながら意味不明である。もしぼくの診断結果が「長文者(IMFM型)」とかだったらぼくもMBTIを信じたのに。ところが残念ながらMBTIにそんな性格タイプはない。不本意ながらぼくは「提唱者(INFJ型)」の称号に甘んじなければならないようである。いまのところ。