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365日の美を任された職業人として美容室を経営する

両親の反対を押し切ってなった美容師。いざやってみるととても楽しく、カットの技術や接客スキルも向上して、始めて3年経った頃から自分で経営することを考えるように。
2008年の創業から6年間は、傷だらけでも走るような状態。それから子どもができたり、体調を崩したりする期間があり、自分が仕事にフルコミットできない状態になったとき、マネジメントについての悩みが生まれる。そんなタイミングで誘われた中小企業家同友会で、経営理念や事業計画を作り直してみることになった。

本レポートは、岡山県中小企業家同友会青年部の会社訪問の一環で、ナチュラルグループの代表・本郷理英子さんのもとを訪問し、そのときの話を個人的にまとめたものです。


ミッションと戦略

ナチュラルグループのミッションは、中小企業家同友会の経営指針成文化研修でつくられた。

ミッション:お客様の美を365日任された職業人として幸せな日々を過ごせる人を増やし続ける

お客様に喜ばれて、選んでもらうためには、どういう商品・サービスを提供すればよいか。お客様をどこの美容室よりも綺麗で可愛くなり続けることへ導き、幸せな日々が過ごせる人を増やし続ける美容室を目指して、

美容の専門家として「似合う×なりたい=似合わせ」の技術

を磨いている。

似合う×なりたい=似合わせ

本人が似合う髪型でも、本人がなりたいイメージとは違うこともある。すなわち、「似合う」と「なりたい」が同じではないことがある。そこで、お客様のなりたいものと、スタッフが持ってる技術で「似合わせる」を行う。本人の骨格を考えて似合うものを掛け算したり、技術だけでなくケアも含めて、サービスを提供していく。

それをナチュラルグループのブランドとして、ケアに関する技術とカウンセリング力を掛け算することで、他に真似できない美容室にできるのではないかと戦略を立てている。

また、集客(お客さんが来たい)と採用(この店で働きたい)はイコールだと考え、集客を行っている。ナチュラルグループには、お客様のなりたいや悩みに寄り添ったメニューの提案ができる、すなわち「似合わせ」ができる美容師さんがいる。つまり、提供するサービスと自分のなりたい美容師像が明確にある。ここがブランディングができれば、集客と採用がうまくいくことが最近分かったと本郷さんは話す。

自分たちの得意が何か分かると、お客様に本当に喜んでもらえることが何かも分かる。私達は、似合わせる=お客さんにとってベストな選択が何かをしっかり考えた上で、ケアの方法や技術を提供しますよとなるので、例えば、今は派手なカラーをやってる子が多いんですけど、カラーをやりたいっていう美容師が入らなくなるんですよ。カラー専門で技術を伸ばしたい人が入社すると、『似合わせ』の技術力を伸ばしていくことにミスマッチを感じて離職につながるので、お互いのために打ち出しをしています。

ナチュラルグループでは、カウンセリングシートを使ってお客さんのヒアリングを行う。デビューして間もない美容師は会話から引き出せないこともあるが、シートに回答を見える化することで、またロールプレイングを繰り返して、カウンセリングの練習をする。

仕上がりの出来はカウンセリングで8~9割決まると本郷さんは話す。できないことは「できない」と言えないといけないこと、「今の状態だと○○という選択肢としてあります」と提案できることなど、きちんと伝えて信頼関係を築く必要がある。

カットだけでなく商品も提案する

美容業界は価格に占める技術料金の割合が高く、その意味で粗利は多い。しかし、技術料金に上限(適正価格)はあるので、付加価値分を商品販売でつくる戦略をとることに。それによって、スタッフの時間単価をアップすることができました。

例えば、5,000円のカットにシャンプー・トリートメントの販売が付くと18,500円なる。(利益率は下がって見えるが)利益額は上がり、スタッフへの給与や賞与として還元できる。売上にあげる商品販売は、ただ利益を増やすことが目的ではなく、お客様へのサービスの質向上に還元することやスタッフの働く環境の整備に事業を割くことができる。

本郷さんは、年齢に関係なく働き続けられる職場になっていくことが必要だと話す。美容室では、とりわけ男性は年齢で差別化される側面があり、同じ技術を持っている場合、若い美容師の方が選ばれやすい。教育部門の設立によるスキル向上やBtoB領域を作ることで、年齢に関係なく生産性を高め、活躍できる機会を生み出していきたいと考えている。

実際、ナチュラルグループは、物品販売比率が業界平均値より高い。全体平均5~10%に対して、40%程度になる月もある。客単価も高くなり、業界平均7,700円に対して12,000円になっている。こうした店舗での物品販売は、物を売るではなく、店のポリシーを販売するため『店販』と呼んでいる。

強化策としてエステ部門も立ち上げた。スキンケアの市場規模はヘアケアの2〜3倍であり、従来の美容室の外にマーケットを拡張できる可能性を秘めている。サロンでのカウンセリングを通して、お客様一人一人の悩みや状態に合ったメニューやスキンケア商品を提案することで、「買ってはみたものの合わなかった」という機会を減らしていきたいと本郷さんは言う。

慣習的に美容師はカット技術でナンボという面もあったが、コロナ禍でのeコマースの波は美容院にも訪れている。一方で、美容室に商品販売のノウハウがあるわけではないので、力を入れる会社も決して多くはない。そんな中、本郷さんは自分も全く分からないところからスタートした。

Instagramで化粧品を紹介などを行っているが、ネット販売している商品は取り扱わない。日本の会社が日本人のために考えて作ったメーカー3社にこだわって取引をしている。(その3社はインターネット販売は禁止されている。)店頭でスタッフとお客さんがカウンセリングを通じて正しく提案することを前提として作られた店販商品。これをネット販売すれば、販売額は増えるかもしれないが、それでは一人ひとりの悩みに寄り添った店販商品ではなくなるからだ。

顧客満足度を高めることで

ナチュラルグループでは、新規来店数のうち、紹介経由の顧客が多い。お客さんは何かしら悩みを抱えていて、そこにかわいくなった知人を見ると、「なんでそんな可愛くなってるの」というきっかけからの来店が一番硬いと話す。既存のお客さんがどういう動線で知り合いを紹介したくなるのかを考え、HPなど広報戦略を設計している。

新規顧客に向けたプロモーションと既存顧客の満足度を上げるアプローチ、この両輪を部門を分けて行っている。(若者の)集客は若い美容師が担当し、顧客満足度は主に30代・40代の美容師が担当している。美容師のリピート率は年齢±5歳が最も高くなる。若い美容師たちは、まだ未熟な部分も加味して経験量を増やすための取り組みをして学ぶ。ベテラン美容師は、お客さんに(年齢とともに増える)悩み解決のための提案をしていく。若い美容師にしかできないデザイン、ベテラン美容師だからこそできる提案で、永続的に続く企業となれるよう役割分担をしている。

目標設定はどうしているか

店販商品販売の目標設定は各店舗のスタッフが決める。店販商品の販売はお客様と美容師との信頼関係のバロメーターだと考えている。それはミッションに起因する。

私達がお客様の365日の美を任された職業人として幸せな人を増やし続けるんだとすれば、今自分たちがこのままでいいのか、それとももう一歩踏み出して、お客さんが幸せになる日数を増やせれるようサポートしてみてはどうか。

店販商品の提案は、お客様の365日の美を任された職業人としてミッションにコミットする日数の拡大であり、経営理念の実現に近づくことになる。

目標設定の数値は、技術料と店販販売に加えて、総客数・パーマ比率・カラー比率・トリートメントスパ比率の数値を設定している。それは、お客さんを綺麗にした!という自己満足で終わらすのではなく、客観的な目で綺麗できているのかどうかのバロメーターであり、パーマ比率は30%、カラー比率は60%、トリートメントスパ比率は80%が指標になっている。ここにリピート率を加えて分析し、従業員みんなで毎月話し合っている。

これらの指標は「デザイン提案ができているか」につながる。いくら売上が上がっていても、この指標のバランスが悪くてリピート率が悪いのであれば、顧客満足は達成されていないとなる。逆に、カラー・トリートメントスーパなどの比率が良く、リピート率が良かったら、時間はかかるかもしれないが、売上は上がっていくと考える。リピート率によるリファラルが新規顧客につながる設計だからだ。

スタイリストミーティングでは、売上ではなく成功事例を共有する。売上では、勤続年数が変数になりやすく、若いスタッフの立場が弱くなるが、成功事例だと立場はフラットで発言しやすい。比率の目標設定は、教育の観点からも役立っている。スタッフ一人ひとりがお客さんを綺麗にできてるかどうかを客観的指標で評価できるものさしになっていて、自分で考え自分で解決策を見つけやすくなっている。


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